「何がダメなんですか」

暗く、どこまでも沈んだ瞳が俺を見る。
いや
もしかしたらもうこの子は俺を見てはいないのかもしれない。

俺であることに意味なんかなくて、ただ隣にいたから選んだだけなのかもな。
始まりは確かに恋だったはずなのに、いつから財前は俺をみなくなったのだろう。いつからどうでもいいような態度を取るようになった?
わからない。いや、思い出したくないだけだ。
だって俺はいまでも財前が好きで、きっとこれからも嫌いになんてなれないから。
恋ってのは単純で複雑で簡単なのに面倒臭いものなんだ。

「聞いてはります?」

ずっと一人で思考を繰り返す俺をみて財前は言葉を投げかけた。質問に答えない俺に焦れたんだろう。
俺はそんな財前の綺麗な黒髪を撫でて笑いかける。
それを財前は少し不満そうな顔をしてはいるけど、手は振り払わないでそのままにしてくれていた。
ほんの僅かに見せてくれるこの優しさに触れてる間だけは俺も安心できる。まだ財前は俺を好きでいてくれてるんだ、って思えるから。

「ちゃんと聞いとる。
だから、財前も聞いてくれん?」

「さっきの話やったら聞きませんよ」

だから俺はめげずに言葉を財前に投げかけた。
財前の機嫌が悪くなった原因である話をする為に。
だけど俺が話を持ち掛ければ途端に冷たくなる瞳と言葉。怒らせたのか、手も跳ね退けられてしまった。
ああ、まただ

また黒く澱む


財前は前に進むことをこうやって拒み続ける。怯えているのか、面倒臭がっているのか、俺には検討もつかない。でもだからといって諦めることはできないんだ。
こんなの間違っているからこそ、やめなくちゃ。


「なぁ、財前」

「それ以上言うんやったら無理矢理にでも口を塞ぎますよ」

そう言ったと同時に財前の顔が俺に近づいて、背中の痛みと同時に唇にも痛みが走った。
じわりじわりと体を侵食していく悲しみ

痛みと悲しみは似てる

触れ合った唇は苦痛を漏らして、だけど解放なんてしてもらえない。
ただこの時間が過ぎるのを待つだけの俺。
こんなの、キスでもなんでもない。

痛いだけの行為に愛なんてない。

痛い、
悲しい、
泣きたい、
苦しい、


財前、

財前財前財前

お願いだからもうやめて、
苦しいんだ
愛してほしいのに愛して貰えないことはなにより苦しいんだよ


唇が離れて、見つめ合っているはずなのに俺をみていない瞳を知るたび壊れそうになる

「愛しとる」
「そないな嘘、言わんでええです
もう止めたいんでしょう?」

黒い瞳が悲しみに揺れた気がして伸ばした腕は、冷たく固い床に押し付けられた。優しく、切れた唇に触れてくる財前の指先に恐怖が渦巻く。

財前、俺はいまでもお前が好きだよ
これからだってずっと好きだ

「そんなに止めたいんやったら止めたりますよ
忘れられないくらい傷つけてからですけどね」

だからどうかこれ以上ダメになる前に、





別れよう




どんなに傷つけられたって、悲しくなったって、俺がお前を好きなのは変わらない
なにもしなくたって忘れることはできないよ


『部長!ほんまに俺でええんですか?』
『ええもなにも……俺が好きなんわ財前や』
『すごく、嬉しいっすわ』

思い出にいまだ鮮やかな色を残したまま、君が俺に笑いかける。
本当はもう一度その笑顔がみたかった。
俺を好きだと言ってくれて、幸せだと笑ってくれたことは嘘じゃなかったはずだから

だから

俺から解放されればまた

「…好きやのに」
『好きですよ、部長』

小さく呟かれた言葉が思い出と被って、
ごめんも言えない唇を俺は強く噛んだ

痛い
痛い
痛い

動かない体はもう抱きしめてあげることもできなくて、それが悔しくて悲しくて涙が止まらない
財前はいまどんな顔で俺をみているんだろう。
涙も拭えないから歪んだ視界のなかじゃわからない。

でも声が震えていたから、きっと財前も泣いてるんだろう。


『俺、ほんまに幸せっすよ』
『俺もやで?』

あの頃の幸せは帰らない
でも必ず財前はもう一度幸せを掴めるはずだから


「さよなら、解放したりますよ。もう二度と近付かんて誓いますわ。」

さよなら
それは想像していたよりもずっとずっと重たい言葉
だけどこれで解放される

君が、解放されるんだ
だって全部俺の所為だから

俺が君を縛り付けた。
なら解放するのは俺のほう。


俺がいなければきっと財前はまた日常に帰れる。変な重圧も、周りの視線も、全部全部忘れて
俺との思い出も忘れて
普通の恋をするんだ。


それが幸せに繋がるはずだから


「 」


なぁ、
俺の気持ちはずっと変わらない
例えこの言葉が届かなくたって変わらない

だからどうか泣かないで、大好きな人










貴方なしじゃ生きられない私
(そうであってはならない)



END


この度はリクエストとお祝いの言葉をありがとうございます!
遅くなった上になにやらわけの分からぬ話で面目ございません。

ヤンデレな財前の光蔵シリアスとのリクエストだったはずが財前よりも白石のほうが病んでる気もする内容に仕上がってしまい……

こんな感じの光蔵ですが、気に入っていただけると幸いです

ではではリクエストありがとうございました!
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