忘れてしまえば良いと思った。

届かないなら、諦めて終わらせれば良いんだって……そう思ってた。


だけど人間そう簡単に割り切れるものでもなくて、自覚したら最後意識せずには居られないし、なにより駄目だと思えば思うほど気持ちが膨らんでいく。
なんとも不可解な性質だ。

こんな気持ち、消してしまわなければいけない筈なのに


俺はそれが出来ない


「部長って恋したことあったりします?」

「は?恋、って…恋?」

俺は部室で黙々と部誌を書いている部長の背中を見つめながらなんとなく質問した。
それは随分と沈黙の時間が長くて暇だったからというのと、黙っていると思考がどんどん暗くなっていくから……

後は、単純な興味。

少なくとも好きな人のことは知っていたいと思うから。
(それがどんなに一方的な想いで、伝えるつもりがなくとも、だ。)

部長は俺の質問に一度振り返って、視線を俺に向けながら悩むような仕種を見せた。
シャーペンを口元に持っていき悩むその姿に心臓はドキリと音を立てる。こんな一つ一つの仕種だけで心臓は爆発しそうで、この人が好きで好きでしかたないんだな、って自分自身で再度認識してしまう。
好きでいたってどうしようもないのに好きなだけなら勝手だろ、と言い訳してまで恋している自分は憐れなくらい滑稽だ。

「したことある、って言いたいところやけど……正直な話、ないなあ。突然どないしたん?
まさか財前からそないな言葉を聞くなんて思ってもみなかったわ」

「なんとなく…っすわ。気にせんでください」


恋したことない
喜ぶべき言葉なのかどうなのかイマイチ分からなくて俺は曖昧に言葉を返す。好きな人がいない事を喜ぶ気持ちと自分をもしかしたら好きでいてくれているかも知れない、なんて希望がなくなって悲しむ気持ちとでユラユラと揺れる。
曖昧な心。

そんな態度の俺に部長が何かを追求することはなく、また部誌を書きはじめたその背中を見つめる。
この人が好きだ
それは事実で、だからこそ同じ想いで居てほしいと傲慢にも願ってしまう。

有り得ないって否定して、

勝手な想いだと自覚しているのに


「なあ財前」

シャーペンが滑る音が止まって、部誌が閉じられる音が部長の声と一緒に聞こえた。
どうやら部誌を書き終えたようで、部長がパイプ椅子を引いて俺に体を向ける。

俺は俺でそれをドキドキしながら見ていた。

「なんですか?」

声をかけると一度口を開いてからまた閉じる、という行為を部長がして、いつもならハッキリ言うのに珍しいなと俺は言葉が発せられる待つ。

「……やっぱり、ええわ。部誌も書き終わったことやし帰ろか?」

「部長?」

「気にせんといてや。ほんまに何でもないから。」

そう言って笑った顔は確かにいつもの部長らしい余裕のある表情で、俺も追求するべきじゃないだろうと口を閉じて鞄を肩にかけた。
部長もごまかした俺を追求しないでくれたから、俺もそうすべきなんだ。例えあの時本当は少しだけ追求して欲しかったなんて思ってても、部長もそうとは限らないから。

ただ、もしもあの時部長が言葉を続けていたらもしかしたら……俺は一歩を踏み出せたのかもしれないな、なんて


「帰りにタコ焼き屋よりません?」

「ええで。奢ったるわ!」

「ほんまですか。」

そんな会話をしながら部室を出て、一緒に帰る。それだけで俺は幸せなんだ。
だから贅沢にすべてを求めないで、いまをしっかり噛み締めよう。



「好きですよ」

「え?」

「タコ焼き、好きです」

「俺も、好きやで……タコ焼き」

夕日が沈んでいく世界で、少しずつ闇に染まる空を眺めながら隣で笑うその人を好きなんだと実感した。
さっさと監督に部誌を届けて、そしたら大好きなこの人と大好きなタコ焼きを食べに行くんだ。












隠した想いと言葉
(貴方を愛して止みません)



END


+++++++
みぁ様リクエストありがとうございました!
お互いに両想いなのに好きって言えない光蔵ということで、こんな感じになりました!

どう、ですかね…

私自身は片想い大好きなので楽しく書かせていただけたのですが、すてきな設定を生かしきれなかった感が…
申し訳ないです

少しでも歯痒さや切なさが伝わっていたら嬉しいです


ではではリクエスト、そしてお祝いのお言葉ありがとうございました!!


これからもどうぞよろしくお願いします
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