3月。
それは卒業の季節。

式が終わり、私はそこに彼がいると言われて校舎裏に行った。


校舎裏に着くと、聞き慣れた声が聞こえた。

「……うん、お前の気持ちは分かったよ。…でも、ごめんな。」

「い、いえ!…呼び止めちゃってごめんなさい。…じゃあ、えっと、卒業おめでとうございます。」

きっと笑って言ったのだろう。声色が優しくなった。

「……ああ。じゃあな、元気で。」

あいつが立ち去った所を見計らって彼の元へ行った。


「…先輩、俺……」

くしゃ、と顔が泣きそうに歪む。

「…ん。」
私はあえて何も聞かずに彼にカーディガンを被せて背を向けた。

「せ、んぱ……ぐす、」


彼は背中に頭を預けて沢山泣いた。


シャツが濡れるのも痛い位に寒いのも気にならなかった。

彼の痛みから比べたら痛いのいの字もないから。


しばらくして彼は泣き止んだ。

「…先輩。すみません。ありがとうございます。」

彼はへらりと笑う。

「いや。大丈夫。」

つられて私も笑った。

「みっともないとこ見せちゃいましたね。
……じゃあ、俺はこれで。」

そういった彼は立ち去ろうとする。

「…あ、」

「…あ、先輩。」

小さな小さな声だったのに、何か通じたかのように彼は振り向いた。

「…っ」
「卒業、おめでとうございます。」

ふわっと笑う彼。
再びくるりと踵をかえして遠くなっていく。

「あ、」

咄嗟に出たのはその言葉だけ。伝えたかった二文字は空気となって消えていく。




勇気もない
取り柄もない
平々凡々な私。


そんな私に出来るのは、
ただ傷付いた貴方を

何も言わず見届けること


もう私も
いなくなるのにな



そのひとことすら
 



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