寒い夕方の道を二人並んで歩く。
どちらからともなく話す、訳ではなく全く会話がない。
ただ寒い、と主張するような白い息が出るだけだ。
と、いつの間にか着いていたらしい南沢宅。
「…おじゃまします…」
「ん。どーぞ。」
ガチャ、とドアを開けてもらい中に入る。
くんくん、
「……夕飯はー…シチューっすか。」
「せぇーかい。そこ座ってな。」
ぴっ、と指さされた椅子に座る。
かちゃ、かちゃん。カップとドリッパーがテーブルに置かれ、続いて挽いた珈琲とフィルター。非常に本格的だ。
珈琲をフィルターに入れトポポ…、とお湯を注ぐ。そんな一連の仕種が滑らかで思わず見とれてしまった。
「…倉間。」
「!(ビクッ)…はい?」
「ほら、出来たぞ。」
ことん、と目の前に置かれるカップ。珈琲の香りがふわりと広がる。と同時に南沢さんの甘い香りがする。
「…………」
「…?どうした?俺の顔になんか付いて……!」
がたん、と椅子が音を立てる。
「…、くら、」
ぎしりと骨が軋みそうなほど抱きしめる。
「………俺、匂いフェチなんすよ。珈琲の匂いって苦くて大人っぽくて、すげぇ好き。…でもそれ以上に、南沢さんが好き。」
「倉間……ん!」
だんだんくっさい台詞に真っ赤になる南沢さんにちう、とキスをかましてやる。
「…ふは、変なかお。…南沢さんのくち、あまいね。…いや、全部か。」
「…っ倉間!!」
があっ!!!と怒りをあらわにする南沢さんに構わず、あっつい珈琲を飲み干す。
もちろん口も喉も焼け爛れてんじゃないのかと思うほど痛いし熱い。
「お前な…!、ん、ちょ、」
うるさい口を俺の口で塞ぐ。
「…………倉間、苦い。」
「…でしょうね。んじゃ南沢さんの口で中和してよ。」
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