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「トレイン、入るわよ」

 コンコンというノックもおざなりに、リーリエは隣人の部屋の扉を思い切りよく開け放つ。ついでに部屋の窓という窓を片っ端から開けてまわった。通りに面した窓の外では、このアパートの家主であるレイ爺が箒を片手に、近所の誰かと立ち話に興じている。あっちも早く呼びに行かなければ、せっかく作った朝食が冷めてしまうではないか。リーリエは軽く息をついて、眉をひそめた。

 リーリエがわざと忙しく動き回ったにもかかわらず、部屋の主に目覚める気配はないようで――壁際に寄せられたベッドの上の固まりはぴくりとも動いていない。それを改めて確認してから、リーリエはつかつかとベッドへ歩み寄った。そして両腕を組み、仁王立ちする。

 リーリエは大きく息を吸い込んだ。

「トレインっ! 起きなさいってば!」

「うう……?」

 盛大な怒声を浴びて、ベッドの主――トレインが呻いた。だが、それだけだ。彼は何やらにごにごと呻きながら、そのまま枕に深く顔を埋めてしまった。リーリエは思わずこめかみの辺りを引きつらせる。

「全く毎朝毎朝、この万年低血圧男は……!」

 握り拳で唸ってみても、トレインが起きる様子はまるでない。このいぎたない少年が、この国で最年少の飛竜乗りだというのだから、実に全く納得がいかない。

 リーリエは顔をしかめたまま、手近な椅子を引き寄せて暢気に眠るトレインの横に腰掛けた。足を組み、その上で頬杖をつき、思わずぽつりとひとりごちる。

「何であたし、こんなことやってんだろ……?」

 リーリエとトレインは同じアパートに住む隣人同士だ。トレインは幼いときに両親を亡くして以来、そしてリーリエは半年前に親代わりだった師匠を亡くして以来、このアパートで暮らしている。家主であるレイ爺こと、レイファス=マグノイアは師匠の古くからの友人だったらしく、その縁でリーリエの後見人を買って出てくれたのだ。そしてトレインもまた、リーリエと同じ身の上であるらしい。



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