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 ――それはこの世界とあたしを繋ぐもの。



 窓の外に見えるのはここ数日、何の代わりばえもしない雨模様だった。椎菜はそれをぼんやりと眺めながら、小さく歌を口ずさむ。幼い頃、こんな雨の日には母と二人でよく歌っていた。この世界では誰も知らない、椎菜だけが知っている、椎菜の世界の雨降りの歌。

 雨だれのように弾む旋律の曲にもかかわらず、椎菜の口から流れるそれはどこか鬱々としている。事実、この重く垂れ込めた雲と同じように椎菜の心はどんよりと曇っていた。理由ははっきりしている。この雨だ。降り続くこの雨のせいで、王都へ向かう椎菜たちはとある街で足止めをくらっているのだ。こうしている間にも、王都にあると言われているフォルトナの肉体は目覚めつつあるというのに。きっと、あちらではリラが気を揉んで待っていることだろう。それを思うと、先に進めないことに対する焦りと罪悪感がますます膨れ上がっていく。

 だからといって無理に先に進んで何かあったら、それこそどうしようもない事態に陥ることだろう。それが分かっているから、逸る気持ちを抑えつつ、椎菜はこうしておとなしく雨が止むのを待っているのだった。――けれど。

「……暇すぎる」

 ひとりごち、窓枠に頬杖をついてみた。そうしてみたところで、この状況は変わらない。何もすることがなくて退屈しているという、この状況は。

 振り返って、ぐるりと部屋を見回してみる。寝台のすぐ傍には、先ほど手入れを終えたばかりの剣――【フォルトナの剣】が立て掛けられていた。椎菜はそれを少しの間見つめると、ふいと視線を逸らせた。あの剣を扱うようになってから随分経つが、自分があれを手にすることに未だに複雑な心境になってしまう。あれは確かにこの世界を守る道具ではあるけれど、同時に椎菜から大切なものを奪い去った原因でもあるから。そのことを思うと、時折投げ棄ててやりたくなるのだ。実際にはそんなこと、出来ようもないが。




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