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 晴れたソラを見上げていると、会いたくなる人がいる。



「……寒い」

 呻くように呟いて、首元にぐるぐると巻いたマフラーの中に顔を埋める。耳にはこの間買ったばかりのイヤーマフを、手にはもちろん手袋を、そして足元にはモコモコしたブーツを装着しているというのに、ちっとも寒さが緩和されてない気がするのは何故だろう。そういえば朝のニュースのお天気お姉さんが『今日はこの冬一番の冷え込みです』とか言ってたような。元々朝に弱いタチだけど、冬は寝惚け具合が更にひどい。だから記憶も曖昧だ。

 わたしが今居るのは、自宅近くの駅。各駅停車だけが停まる小さな駅だ。休日の朝の時間帯のせいか、ホームに人影はまばらだった。その片隅に一人佇んで、わたしは電車を待っている。次の電車が来るのは、あと二・三分ってところなのだが――それまで正常な意識がもつだろうか。あまりの寒さに不機嫌な表情を浮かべて、わたしはため息をついた。息が白い。

 もう一度大きく息を吐き出して、白く浮かぶそれを見つめた。ふわっと舞い上がって消えた視界に映ったのは、ホームとホームの間に見える狭い空。穏やかに青い、その色にわたしは思わず両目を細めた。

 耳の奥に、懐かしい声が蘇る。


 ――ホント、お前って寒がりだよなあ。


 呆れたようにそう言って苦笑した誰かさんは、今も元気にしているだろうか。思い出して、わたしはすぐに目を伏せた。そして、口許に自嘲気味な笑みを浮かべる。

 懐かしがる権利なんて、わたしにはないのに。あの日、諦めてしまったわたしには。

 胸の中によぎった苦い思いを噛みしめていると、近くにある踏切の音が聞こえてきた。電車が来る。わたしは目を開けた。しっかりしなくちゃ。これからバイトだ。昔のことを思い出して浸っていられるほど、暇な職場じゃないんだから。

 やって来た電車が目の前に滑りこんできた。わたしは慌てて目の前のことに意識を切り替えて、暖かい車内へと足を踏み入れた。



*  *  *



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