1 しおりを挟むしおりから読む企画TOP 「……っと。まだ戻ってないか」 部活用のジャージに着替えてから、慌てて向かった野球グラウンド。そこに、いつもの仲間の姿はない。確か今日のメニューは外周を走って、それからグラウンドでの練習だったから、今奴らがここにいないのは当たり前のことなんだけど。 いつもならHRが終わったらすぐに部活に直行するところだったのだが、今日は違った。進路指導の面談があったため、少し遅くなってしまったのだ。自分のための話だから仕方ないとはいえ、やっぱり部活に遅れてしまうのは不本意だ。新学期が始まったばかりで、新入部員はまだいない。当然新しいマネジもいないわけだから、今はわたし一人。圧倒的に人手が足りないのだ。 (……今日は初璃、いないしね) 最近よく手伝いに来てくれる親友にも、自分の部活がある。なので、今日は一人でマネジの仕事を片付けなければならないわけだ。ま、別にいいんだけどね。量が多いからって、マネジの仕事が厭になるわけじゃないし。 さて、と気合いを入れて、わたしはとりあえずベンチの方に向かった。そして一通りチェックして――ふと、肩の力を抜く。 ――だって。 「全部、やってあるじゃん」 拍子抜けして呟いた。わたしの前にあったのは、中身がスポーツドリンクでいっぱいのジャグとその他諸々の細かい用具。それらがいつもと同じように、ちゃんと揃えられていた。 遅れることは前もって言ってあったから、どうやら先に準備をしておいてくれたらしい。多分、成瀬あたりが気を利かせてくれたんだろう。一人、そう納得して、わたしはくるりと踵を返した。 (……部室の掃除でもやるか) やることのリストから次のものを引っ張り出す。せっかく仕事が幾つか減ったわけだし、ちょうど皆いないし。掃除するには、うってつけのタイミングだろう。そう思って、グラウンドを後にしようとした。――と、ちょうどそのとき。 「たっだいまーっ!」 やたら騒がしい声をあげて、誰かが帰ってきた。視線を向ければ、よく見知った部活仲間の姿が目に入る。 「……お疲れ」 「おう!」 何となく勢いに圧倒されながら小さく告げると、その相手である間宮が満面の笑みを浮かべた。相変わらず、能天気なカオだ。 |