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 ――最近何だか、とにかく色々気に入らない。



 暗闇に青い光剣が閃く。

「……さんじゅうに、っと」

 暢気な口調でそう言って、その声の主はあたしの背後に着地した。それから問うてくる。

「隼音(はやね)ちゃーん、まだ終わんないのー?」

「……もう、少し……っ」

 急かすんじゃない! と内心で舌打ちして、あたしは目の前の【仕事】に集中した。

 あたしの前には穴がある。暗い路地裏の行き止まりに、不自然なまでにぽっかりと開いた穴。【魔瘴門】と呼ばれるその中では、文字通り魑魅魍魎が這い出ようと、必死の抵抗を続けていた。だけど、あたしはそれを許さない。この穴を塞ぐことが、あたしの【仕事】だからだ。そして。

「さんじゅうさんっ!」

 視界の外で、穴から無理矢理這い出た小鬼が斬られる音がした。斬ったのは先程の暢気な声の主だ。声の調子はふざけていても、気を抜いてはいないらしい。まあ、仕事中なんだから当然だけど。

(……集中しなきゃなんないのは、あたしのほうか)

 ばちんと一際大きな音を立てて穴の周囲に光が爆ぜたのを見て、あたしは眉をひそめた。広がろうとする穴の力と、それを閉じようとするあたしの力。その両方が反発し合って、ばちばちと不穏な音を立てている。穴に翳した両手にも痛みが走る。

(――生意気っ)

 またもや穴から出てこようとしてきた小鬼と目が合って、あたしはそいつを睨みつけた。そして集中する。背後の慣れ親しんだ気配も、指先の痛みも、爆ぜる光も全て、意識の外に追いやってしまうほどに――深く、深く。

 目に映るのは、暗い深淵と蠢く有象無象の姿だけ。

「……封鎖せよ」

 境界を越えることは禁忌なのだから。

「現世(うつしよ)に開く魔瘴の扉。退去せよ、悪しき魔性よ。……瘴気を纏う異界の門よ。定められし理の下、在るべきものを在るべき場所へ誘い、その扉を閉ざせ!」

 呪を唱え、全ての力を穴に向けて注いだ。徐々に小さくなっていく、それ。

 最後にまた音を立てて、穴は閉じた。それを見届けて、あたしはようやく肩で息をつく。いつの間にか額に浮き出ていた汗を拭い、張りついていた前髪を掻きあげる――と、無造作に肩を叩かれた。

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