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 引っ越してきて最初の数日は、想像してた通りの生活を送っていた。一人で起きて、一人で食事を作って、食べて。仕事をして、勉強をして、最後は寝る。師匠と暮らしていたときと、さほど中身は変わっていない。ただ生活の全てを自分のために、自分一人でやらなければならなくなっただけだ。

 元々孤児だったリーリエは、いつ一人になっても平気なようにと魔女であった師匠から様々なことを叩き込まれてきた。魔法も、家事も、畑仕事も。だから今、一人になってもさほど困ってはいない。少しばかり寂しいと思う時間が増えただけで、リーリエはちゃんと生きている。

 そんなふうに始まった新生活のある朝、リーリエはアパートの廊下で行き倒れているトレインを見つけた。トレインに会ったのはこのときが初めてではなかったので、顔も名前もちゃんと知っていた。リーリエがこのアパートに越してくるとき、色々あって手伝ってくれたのが彼だったのだ。けれど、かなり驚いた。それはそうだろう。朝、ゴミを捨てに行こうと扉を開けたら、見知った人間がうつ伏せになって撃沈していたのだから。

 そのときのトレインは空腹と睡眠不足が原因で倒れていた。彼の職業は飛竜乗りで、この辺一帯を飛び回って手紙や小包を届ける郵便業務が主な仕事だ。日がな一日、空を飛ぶのだから、当然体力がいる。日によっては夜勤もあるらしい、なかなか厳しい職場だ。――それでも、飛べないリーリエにとっては羨ましい話なのだが。

 肉体が資本の仕事ならば、当然しっかり健康管理をして然るべきなのだが、若さを過信していたせいか、トレインはわりとそういったことには無頓着だった。それまで何事もなく、無理出来てしまったのが良くなかった。レイ爺や局長の奥さんがあれこれ世話を焼いてくれたものの、それもついに追いつかなくなるくらいに疲弊していたらしい。

 その現場に居合わせてしまったリーリエは、とりあえずトレインを叱り飛ばして、不本意ながら介抱してやることになったのだった。彼には借りがあったし、リーリエは魔女だ。派手な魔法は得意ではないが、魔法薬や薬草の扱いには長けている。医者の数が少ないこの街では、それなりに重宝がられているのだ。だから文句を言いつつも、トレインの看病を引き受けてやった。

 そしてトレインが元気になった今も何故か、そのときの習慣が続いてしまっているのである。



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