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 だから、気にすることはないと。必要以上に恥じることもないと――至極真面目くさった口調でそう言うと、アレスはまっすぐに椎菜を見下ろしてきた。その表情に、椎菜をからかうような気配はない。だから余計に椎菜は何と返せばいいのか、分からなくなる。

「そんな、大層なものでもないと思うんだ、けど……」

 暫しの間を空けて口を開いてみたが、ぶつ切りのたどたどしい言い様に自分で眉をひそめてしまった。かっこ悪いなと思う。こういうときにさらりと流せる、器用さがあればいいのに。現実は面映ゆくて、狼狽えて。それを生業としている人から見たら、自分の詩など取るに足らない未熟なものなのに。

 それなのに、嬉しいと思ってしまう。けっして声にはならない自分の思いが伝わっているような気がして。ここにいてもいいのだと――そう認めてもらえたような気がして。

 そんなことを考えているのが周りの人たちに知られたら、皆に叱られそうだ。特にこの兄弟子には――そう思って椎菜は小さく笑った。それを不可解に思ったのだろう。アレスが眉をひそめる。

「シーナ?」

「何でもない」

 心配性の兄弟子にそう返して、椎菜は今度はあざやかに笑ってみせた。さっきまでとは打って変わった表情の変化に、アレスはきょとんとする。それから怪訝そうに問うてきた。

「俺は何かおかしなことを言ったか?」

「別に言ってないよ」

「だが、笑ってるだろう?」

「だから、そういうんじゃないって」

 軽やかな声で答えて、椎菜は寝台から立ち上がった。近づいた高さの分、アレスの表情がはっきり見える。そこには疑問符と少しばかりの苛立ちが見え隠れしていて、椎菜はそれを緩和するべく、青年の顔をまっすぐに見上げて言った。

「嬉しかったんだ。久しぶりに、あたしの詩を褒めてもらえたから。旅に出てからは謳う機会もすっかりなくなっちゃったから……だから、そういうふうに思ってもらえてるんだって聞けて、嬉しい」



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