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 無意識だからこそ――何も演じていないからこそ、そこに表れるのはただの椎菜の想いでしかない。もしかしたら『想い』とも言えないほど、曖昧でぼんやりしたものが自分の知らないところで誰かに見られているのかもしれない。そう思うと、ひどく落ち着かない気分になる。

「ううう……」

 自分の知らないところで自分の素の部分が晒されてるかもしれないなんて、人前で裸にされるのと同じくらい恥ずかしいことなのではなかろうか。椎菜は思わず頭を抱えて、身悶えした。それをアレスに心底不思議そうに見下ろされて、ますます居たたまれなくなってくる。ああもう穴があったら入りたい。そうして、いっそ埋め立てて頂きたい。

 早くこの話題から離れたいと思った、そのとき。アレスの、いつもと変わらない穏やかな声がした。

「そんなに気にすることでもないだろう」

「気にします!」

 きっと眦を上げて、少し大きい声で椎菜は反論した。だが、そんな椎菜の態度をアレスは少しも気にせず、きっぱりと言い切る。

「あなたの詩が上手いことに変わりはない」

「だから、そういう問題じゃなくて……!」

 何と言ったら分かってもらえるのか。椎菜は頭を抱えながらも、反面で諦めてもいた。共に旅を続けるうちに知ったが、アレスは基本的に大雑把な感覚の持ち主だ。並外れた勘のよさで椎菜の内心を読み取ってくれることも多いけれど、時々変に鈍いところもある人でもある。だから多分、このことに関しては椎菜の気持ちを理解してくれる確率は低いだろう。

 人前で詩を披露するなんて経験、きっとアレスにはなかっただろう。それに一人で詩を口ずさむ彼の姿も想像できない。それと同じようにアレスも、椎菜が何を思って謳っているのかなんて考えたことはないはずだ。きっと想像が追いつかないに違いない。椎菜はやれやれと首を振ると、この話を打ち切るべく、口を開いて――そのまま、ぽかんと開けっぱなしにする羽目になってしまった。一瞬早く、アレスが言ったからだ。

「どちらもあなたの詩だろう?」

「は」

「酒場で謳ったのも、さっきのも、どちらもあなたの中から生まれたあなたの詩だ。どんな謳い方をしていても、あなたの歌声には人を惹き付ける力があると……俺はそう思ってるんだが」



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