5 しおりを挟むしおりから読む企画TOP 「ちょっと!」 声を荒げるリィ。俺はそれに笑みを返してやり過ごす。 「早く行かないと虹が消えちゃうだろ?」 「あたしは行くなんて言ってない!」 「言い出しっぺはリィだろー? 言われてみれば、どんなふうになってるのか。気になるし」 だから見に行こうぜ、と掴んだ腕を引けば、リィは反発するように身を捩った。 「あたしはいいってば!」 「でも、俺が行きたいし」 「だったら一人で行けばいいでしょうが!」 「それじゃ意味ないんだよ」 ちらりと横目でリィを見て、もう一度その腕を引いた。 「俺はリィと行きたいんだから」 言うだけ言うと、リィは一瞬ぎょっとしたように目を見開いて――仏頂面で俺から視線を反らした。それから、もごもごと口を開く。 「……勝手にすれば」 「うん」 かろうじて聞き取れた呟きに、俺は軽く頷いて歩き出した。斜め後ろを歩くリィはもう抵抗してこない。それでも時々何やら毒づいている声が聞こえてきて、俺は笑いを堪えるのに必死だった。 (ホントひねくれてるよなあ) プライドは傷つくのかもしれないけど。でも、そんなにも焦がれてるんだから。好きなんだから。その気持ちに今更フタをすることはないだろうに。 変なところで不器用で意地っ張りな彼女は、きっと俺が見てるところでは笑わないから。初飛行のときみたいなカオは見せてくれないだろうから。 なるべく振り返らないようにして、彼女を乗せて空を飛ぼう。そう決めて、俺は相棒の待つ小屋に向けて歩調を早めた。次に地上に戻ってきたとき、リィの瞳がいつもみたいな輝きを取り戻しているのを願って。 【終】 |