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「ちょっと!」

 声を荒げるリィ。俺はそれに笑みを返してやり過ごす。

「早く行かないと虹が消えちゃうだろ?」

「あたしは行くなんて言ってない!」

「言い出しっぺはリィだろー? 言われてみれば、どんなふうになってるのか。気になるし」

 だから見に行こうぜ、と掴んだ腕を引けば、リィは反発するように身を捩った。

「あたしはいいってば!」

「でも、俺が行きたいし」

「だったら一人で行けばいいでしょうが!」

「それじゃ意味ないんだよ」

 ちらりと横目でリィを見て、もう一度その腕を引いた。

「俺はリィと行きたいんだから」

 言うだけ言うと、リィは一瞬ぎょっとしたように目を見開いて――仏頂面で俺から視線を反らした。それから、もごもごと口を開く。

「……勝手にすれば」

「うん」

 かろうじて聞き取れた呟きに、俺は軽く頷いて歩き出した。斜め後ろを歩くリィはもう抵抗してこない。それでも時々何やら毒づいている声が聞こえてきて、俺は笑いを堪えるのに必死だった。

(ホントひねくれてるよなあ)

 プライドは傷つくのかもしれないけど。でも、そんなにも焦がれてるんだから。好きなんだから。その気持ちに今更フタをすることはないだろうに。

 変なところで不器用で意地っ張りな彼女は、きっと俺が見てるところでは笑わないから。初飛行のときみたいなカオは見せてくれないだろうから。

 なるべく振り返らないようにして、彼女を乗せて空を飛ぼう。そう決めて、俺は相棒の待つ小屋に向けて歩調を早めた。次に地上に戻ってきたとき、リィの瞳がいつもみたいな輝きを取り戻しているのを願って。



   【終】




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