しおりを挟むしおりから読む企画TOP






 リィが俺にしてくれてることに対して、俺がリィに返せることはそう多くない。俺は料理とか出来ないし。でも、俺はリィが出来ないことをひとつだけ出来るんだ。それが空を飛ぶことだ。

 箒を使って自分の意思で飛ぶのと、竜の背中に乗って飛ぶのとでどんな違いがあるのかは分からない。リィに言わせりゃ、自分の力でやるわけじゃないから全然違うものなんだろう。だからどんなに空に焦がれていても、リィは俺に竜に乗せろとは言ってこない。だけど、俺は憶えてる。はじめて会った日に、俺の相棒の背に乗せてやったときの、リィの表情。

 最初はちょっとおっかなびっくりしながら――でも、まるで小さな子どもみたいにきらきら目を輝かせていた。癖のある柔らかそうな髪を風に靡かせながら彼女は笑ってた。空を飛ぶことを心の底から、身体いっぱいで楽しんでますってカオしてさ。俺はそれを知ってるから。だから、余計にイヤなんだ。落ち込んでるリィを見ているのが。

 もしかしたら、これから俺がやろうとすることは、リィのプライドを傷つけるだけなのかもしれない。けど、それでも俺は何もしないではいられない。だって、きっとおんなじなんだから。リィも俺も、空を飛ぶのが大好きなんだってことは。

「……んじゃ、行ってみっか」

 出来るだけ気負わずに、さりげなく、俺はリィに言った。ゆっくりとひとつ瞬いて、彼女が俺のほうを見る。

「……どこに?」

「虹の端っこ」

 淡白な口調で訊ねてきたリィに、俺はにんまりと笑ってみせた。すると、途端にリィの顔が歪む。怒ったみたいな、困ったみたいな、そんな不可思議なその表情を見て、俺は内心で苦笑した。ああ、やっぱりな。色々とフクザツなんだろう。元々意地っ張りな性格のヤツだから、簡単にこっちの誘いに乗らないだろうと思ってたけど。ここまで予想通りだと笑うしかない。

「……何よ?」

 不機嫌そうなリィの声。俺はそれを無視して、その場に立ち上がった。食後の休憩はもう充分だ。次は軽い腹ごなし。雨も上がって空は晴れて、虹が出てて――飛ぶには絶好の機会だろ?

 相変わらず不機嫌そうな面持ちで座り込んでるリィに向けて、俺は手を差し出した。そして、そのまま彼女の腕を掴んで引き上げる。


- 29 -

[*前] | [次#]






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -