2 しおりを挟むしおりから読む企画TOP 「他の奴らは?」 首を傾げて訊ねると、間宮は背後を親指で指した。確かに、そちらにぞろぞろと走ってくる集団が見える。 「珍しいわね。あんたが一番乗りなんて」 日頃の行いがアレなせいか、間宮は他の連中と比べてあまり練習熱心という印象がない。いや、別にさぼってるわけじゃないんだけどね。やることはやってるんだろうけど、いつも飄々とすっとぼけてるもんだから、今日みたいに誰より早く戻ってくるなんていうのはとても珍しい。 わたしは胡乱な視線を間宮に向けた。すると間宮は練習着の袖で汗を拭いながら、にこにこと口を開いた。 「いや、ランニング中にちょっといいもの見つけてさ。お前にも見せてやろうと思って」 そう言って、間宮は片手に持っていたものをこちらに差し出してきた。反射的に、わたしはそれを受け取る。 「――あ」 「珍しいだろ?」 自慢気に間宮が言った。思わず素直に頷いてしまう。 間宮が寄越した、わたしの手の上にあるもの。それは。 「四葉なんて、はじめて見たわ」 まじまじとそれ――四葉のクローバーなるものを見ながら、わたしは小さく呟いた。それから目を上げて訊ねる。 「どこで見つけたの?」 「戻ってくるとき、そこの公園で。何かさ、ずっと気になってたから試しに探してみたんだよね」 「部活中に、自主的に休憩してまで?」 「うん」 片目を細めて咎めると、間宮は悪びれなく頷いた。何を考えてるんだ、こいつは。わたしは内心で頭を抱えた。 とはいえ、『何か気になる』程度で探して四葉を見つけ出してきたのだから、間宮の運もたいしたものだ。ついでに、寄り道したくせに一番乗りで帰ってきたその体力も。常日頃からもう少し真面目な態度をとってれば、こういうときに素直に感心されるのに。その気にさせない所が間宮が間宮たる所以なんだろうな。目の前で機嫌よく笑う男を見上げながら、つくづくとわたしは思った。 手のひらに乗せたままの四葉は、間宮が握ってきたせいだろう。少しばかり萎れてしまっていた。だけど、四葉は四葉。珍しいものに変わりはない。まして『幸運のお守り』だもの。見せてもらえて、悪い気はしなかった。 「はい」 もう一度、しげしげと見てからわたしは間宮に四葉を差し出す。すると間宮はその手を押し止め、にっこりと笑みを深めてから言った。 「やるよ」 「は?」 |