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「あの、大丈夫だよ」

「は?」

「脚立があれば一人でもできるから……練習戻ってくれて大丈夫だよ?」

 おずおずとそう言うと、曽根くんは眉間に皺を寄せた。あれ? 何かマズイこと言ったかな? 一瞬どきっとして、わたしは曽根くんの返事を待つ。――と、曽根くんがいつも通りぶっきらぼうな口調で言った。

「一人でやるより、二人でやったほうが早いだろ」

「でも曽根くん、練習あるでしょ? わたしは別に何も用事ないし……」

 だから大丈夫だよ? もう一度わたしがそう言うと、曽根くんの眉間の皺がぎゅっと深まった。――え? もしかして怒ってる?

 内心でびくびくしながら、それでもどうにか曽根くんから視線を逸らさないように頑張った。ここでそんなことしたら、めちゃくちゃ感じ悪く思われてしまうからだ。ただでさえ曽根くんと、それも二人きりで話せる機会なんてないんだもん。無愛想な曽根くんが相手だと、話すきっかけを掴むのも一苦労なのだ。だから、ここはぜひとも次に繋がるような会話をしたいところなんだけど。

 でも、何か間違っちゃっただろうか。黙ったままの曽根くんを見上げていると、そんな不安がむくむくと膨らんでくる。――と、曽根くんは大きなため息をついた。それから少しイライラしたように首の後ろに手をやって、口を開く。

「ヒトに頼まれたことぐらい、ちゃんとやるっての。見くびんなよ」

 吐き捨てるみたいに言われた科白に、わたしは大慌てで首を横に振った。

「そんなこと、思ってないよ!」

 その声が予想外に大きく響いたことに驚いて、わたしはまた慌てて口を閉じた。けど、それ以上に驚いたのは曽根くんのほうだったみたいだ。彼はぽかんとした表情でこちらを見ている。

(あ、カワイイ)

 聞かれたら、また怒られそうなことをこっそり思った。普段が普段なだけに、曽根くんのこういう表情を目にすることはものすごく珍しい。教室でも、もっとこういうカオを見せてくれたらいいのにな。でも、それで他の子に人気出ちゃっても嫌だしなあ。目の前の曽根くんの顔が訝しげな色に染まっていくのも気にせず、わたしはそんなことを考えていた。そうしたら。

「……何、見てんの」

 今度は気まずそうに言って、曽根くんはわたしから目を逸らした。そして、ガシガシと強めに頭を掻く。――って、あれ、もしかして。



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