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(あのときの優しさが嘘か幻みたいですよ、曽根くん)

 どことなく物悲しい気分で思う。あのとき――よく晴れた、冬のある日。その日、わたしは初めて曽根くんに会った。どうしようもなく悲しいことがあって落ち込んで泣いていたわたしを、曽根くんは浮上させてくれたのだ。たったひとつの使い捨てカイロで、凍えきってたわたしの心も身体も暖めてくれた。そしてそれ以来、彼はわたしにとって『気になる人』になっていた、んだけど。

 進級して同じクラスになって喜んだのも束の間。わたしはあのときの曽根くんと教室にいる無愛想な彼とのギャップに、驚いて戸惑った。別に幻滅したってわけじゃない。そもそもよく知りもしないのに、そんなこと考えるのは失礼なことだし。でも、出来たら仲良くなりたいなあと思ってたから、少し困ってしまったのは事実だ。曽根くんを取り巻く無気力で無愛想で、ぶっきらぼうなオーラはある意味鉄壁で、なかなか近寄りがたかったから。そして、それは今現在も継続中の悩みだ。

 野球してるときの曽根くんはそんなことないんだけどなあ。表情はイキイキとしてるし、笑顔も見られる。もちろん険しい表情で怒鳴ってるときもあるけど、それは彼がそれだけ野球に対して真剣なんだっていう証拠みたいなものだから、怖いとまでは思わない。むしろ、その……カッコいいなとか思っちゃったりするわけで。

 何度か見たことがある、練習中の彼の姿を思い出して、わたしはぱたぱたと顔を扇いだ。何だか暑くなってきた。そんなわたしを不審に思ったのか。曽根くんが怪訝そうに首を傾げる。

「どうかしたか?」

「ううんっ、何でもない!」

 慌てて首を横に振ると、曽根くんは相変わらず淡白な声で「ふーん」とだけ呟いた。その表情はどこかつまらなそうにも見えて、わたしは気まずく視線を落とした。ちょうど休憩に入ったところだって言ってたもんね。やっぱり早く戻りたいんだろうな。そう思って、少し落ち込んだ気分でわたしは口を開いた。


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