3 しおりを挟むしおりから読む企画TOP 「え、何で? どうして?」 外は雨だけど、野球部の練習は休みじゃなかったはずだ。いつも外で活動している運動部は、今日みたいな雨の日は校舎内の限られたスペースでの練習を余儀なくされている。私立の学校みたく立派なトレーニングルームがあるわけじゃないウチの学校では、身体の大きな運動部員が狭い廊下にずらっと並んで筋トレしてるのなんて珍しい光景じゃない。 雨の日の野球部が校内のどの辺りで練習しているのか。目の前の彼に、ちょっとした興味があるわたしは知っている。こことは別の、ちょうど職員室のある棟のホールがその場所。だから、曽根くんがいきなりここに現れたのは不自然と言えば不自然なことだろう。 あたふたと訊ねるわたしに、曽根くんはあくまで淡々とした口調で答えた。 「ちょうど休憩入ったときに担任に捕まった。あんた一人じゃ大変だろうからって」 俺も一応日直だし。曽根くんは低い声でそう続けて、こちらに歩み寄ってきた。さっき言った通り、借りてきたらしい脚立を肩に担いでいる。それを棚の手前に置いて、曽根くんは棚と本の山と――そして、わたしをしげしげと見比べた。わたしは思わず一歩後退る。 「なっ、なに?」 「……人選ミスだな」 いくら日直とはいえ――曽根くんはそう言って、軽く肩を竦めてみせた。自分でもさっき思ったことだけど、他人に言われると何か余計に堪える。まして『気になる相手』からなら尚更だ。 (ホント、口悪いなあ……) 同じクラスになってから知ったことだけど、曽根くんは発言があまり優しくない。そして愛想もよろしくない。教室にいるときは大抵つまらなそうに机に頬杖をついてるのが、いつもの彼。元が引き締まった顔つきをしているからか、余計に話し掛けづらい雰囲気を醸し出している。気弱でおとなしい子なんかは絶対一人で近づけないだろう、そんな静かな威圧感がある人だ。そのせいか、女子と親しげに話す姿というのはほとんど見たことがない。 男友達と喋っているときだって、その印象は変わらない。特に同じ野球部の仲間に対しては親しみからなんだろうけど、更に手厳しいことを言って相手を撃沈させることもしばしばだ。それでも曽根くんは別に周りに嫌われたりしていない。それは多分、彼が意外と『いい人』なことを周りがちゃんと知ってるからなんだろう。――かくいうわたしも、その内の一人なんだけど。 なんだけど、今は。 |