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「届かないんじゃ話になんないじゃん」

 他に誰もいない室内に自分の呟きだけがやけに大きく聞こえて、わたしは眉をひそめた。試しに棚の上段に向けて手を伸ばしてみるけど、やっぱり自前の身長だけじゃ届かない。手の指先とつま先とふくらはぎの辺りをぷるぷるさせても、無理なものは無理だ。仕方なく諦めて、わたしは周囲を見回してみた。

「脚立なんて……あるわけないか」

 この教室の中には本の山の他は地域の人から寄贈されたらしい『昔の道具』ばかりで、脚立や椅子の姿を見つけることはできなかった。代わりにあるのは鍬とか鋤とか、変わったところでは脱穀機とか。昔の農作業で使われていた道具を中心に色々と展示されているため、雰囲気がやけに物々しい。

 隅の方はちょっとした座敷になってて、そこには台所道具とか人形とかが置かれていた。――うん、人形。ぬいぐるみじゃなくて、人形。黒髪に白い肌をした、日本人形というやつだ。何となく見つめ合ってしまい、思わず顔をひきつらせる。

(苦手なんだよなー……こういうの)

 いわゆる怪談というか、それを連想させるものが苦手なわたしにとって、ここに長居しなければならないこの状況はハードルが高過ぎる。こうしてる間にも頭の片隅では『あの人形が動いたらどうしよう』とか『急にあの人形の頭がもげたら怖いよな』とか、そういう想像が映像付きで浮かんできて、背筋がぞっとした。そんなことあるわけないって分かってるんだけどさ。

 イヤになるくらい逞しい自分の想像力を全力で嘆きつつ、とにかく早く終わらせよう! とわたしは決意を新たにした。そのために、まずは。

「どこかで脚立か椅子、借りてこなくちゃ」

「――もう借りてきた」

「ひゃあっ!」

 独り言に何故か律儀な返事が聞こえてきて、わたしは思わず悲鳴じみた声をあげてしまった。びくびくしながら後ろを振り向くと、そこにいたのは。

「そそそそ曽根くんっ!」

「……どもりすぎ、瀬戸サン」

 振り返った先――教室の出入口に立っていたのは、野球部の練習着姿の曽根くんだった。呆れたように目を半眼にして、こっちを見ている。



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