4 しおりを挟むしおりから読む企画TOP 膝の上のバッグの中で、携帯が震えた。短い振動が知らせるのはメールの着信。こんな時間帯に珍しいな。バッグの中を探りながら、わたしは首を傾げた。 取り出して見た画面には思った通り、新着メールが一件の表示。機械的な動作でそれを開いて――それから、わたしは目を瞠った。彼、だ。卒業してからも何回か、やり取りをしたことがある。けど、やっぱり忘れなきゃいけないと思って。何度も削除しようとして出来なかった、アドレス。 電車が更に減速する。そして駅に停車した瞬間、わたしは意を決してボタンを押した。 『久しぶり。元気?』 何の変哲もない、始まり方。その後に続いたのは。 『突然だけど年末年始、帰るから。予定、空けとけ! 今度は絶対に逃げるなよ!』 あまりにも一方的な宣言。それを目にして、わたしは数度瞬いた。 ――帰って、くる? 「なん、で」 妙にかさついた声で呟いて、携帯を握り直す。何で? どうして――って、帰省だよね? 夏は帰って来なかったんだ。だから、きっと親から言われたに違いない。それで、帰省のついでに会おうって、それだけの話なんだろう。そんなの、友達としてならよくある誘いだ。けど、 「『逃げるな』って……」 何だかやけに不穏な言葉だ。つまり、何? わたしが逃げたくなるようなことをするってこと? しかも『今度は』って。 わたしが彼から逃げたのは、後にも先にもあの一回だけ。卒業式の日、屋上で、『まだ何も言ってないのに』とぼやいた彼に、それ以上言うなと釘を刺した。そうして、わたしは新しい関係を始めることから逃げたのだ。――ということは。 思い至った瞬間、電車のドアが勢いよく閉まった。その音にびくりと身体を揺らして、わたしは顔を上げた。それから、晴れた空と開きっぱなしの携帯を見比べた。 ――どうすればいいんだろう? 狼狽えた思考で考える。何度も何度も、メールを読み返す。都合のいい思いつきじゃないのかと、頭の中の冷静な部分が囁いてくる。だけど、頬は急速に熱を帯びて。 |