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 気づいたときに思ったことは『無理だ』――それだけだった。あのときのわたしには、卒業して遠くに行ってしまう彼と新しい関係を始める勇気がなくて。だから、なかったことにしようとしたのだ。気づかなかったことにすれば、何もなかったことにすれば、つらい思いも気まずい思いもしなくて済むだろう。笑ってサヨナラをして、あとは時々メールのやり取りをするくらいの友人としての関係が続いていく。それがわたしと彼にとって、最良の選択なんだと――あのときのわたしは本気でそう思っていた。それで大丈夫なんだ。平気なんだって、そう思ってて。だけど。

 ――現実はそうじゃなかった。

 思い出すたび、打ちのめされる。どうして、あのとき勇気を出せなかったんだろう。どうして、あのとき自信を持てなかったんだろう。わたしの中にあった、彼への想いに。遠く離れた場所に行っても、きっと好きでいられると。好きでいるよと。そう伝えていたら――今頃、わたしは欲しかったものをちゃんと手に入れられていたかもしれないのに。

 だって、今でもこんなに好きだ。別に四六時中、彼のことで頭がいっぱいなわけではないけど。でも、ダメだ。思い出してしまうと――いつも一緒に見上げていた空の近さと蒼さを思い出してしまったら、わたしはすぐにダメになる。寂しくて、ダメになる。自分でも驚くくらいにダメになってしまうんだ。けれど、今更どうにもならない。あんなにカッコつけて、お別れしたんだもの。自分から彼を突き放したんだもの。今更、どうすればいいっていうんだ。

 プライドだけが高くて、意気地無しな今のわたしに残されたものは、友人としての関係性と爽やかな青春の思い出だけ。そしてわたしはそれだけに縋って、今もまだ彼を想い続けてる。

(……どうせなら)

 次の停車駅に近づいてきたんだろう。緩やかに速度を落としていく電車の揺れに、身を任せながら考える。

 ちゃんと言っておけば良かったな。言っても言わなくても、こうして好きでいるのなら。あのとき、わたしが『なかったことにしようとした覚悟』なんて、まるっきり無駄で無意味だったんだから。我ながら情けない。自分がこんなにしつこい女だったなんて、全然知らなかった。本当にイヤになる。わたしは眉間に皺を寄せて、ため息をひとつ落とした。――そのときだ。


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