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「やー、久方ぶりにおてて繋いでおウチに帰ってみようかと」

「あほかっ!」

「だって、ほっとけないでしょ」

 怒鳴り声に返ってきたのは、ずいぶんと大人びた静かな声。それに虚をつかれて、あたしは口をつぐんだ。ゆっくり視線を向けると、行き合ったのは見慣れた力強い笑顔。その笑顔のまま、龍斗が言う。

「まるで迷子にでもなったみたいなカオしちゃってさ。……たまには黙って甘えなさいって」

「………っ!」

 何だかとんでもない科白を言われて、あたしは黙った。というか、撃沈した。そんなあたしを、やっぱり龍斗は気にしない。普段の自分の歩幅より狭い間隔を踏み出して、あたしの腕をぐいぐい引いて歩き出す。

 隣り合って、同じ歩調で。

 さっき感じた心細さも、苛立ちも、今はどこかに消えてしまっていた。代わりにあたしの胸に生まれたのは、この状況に対する気恥ずかしさと困惑だ。

 めちゃくちゃ居心地は悪いのに――でも、手を放してしまうのはもったいないような、微妙なキモチ。

 それが何ていう感情なのか。このときのあたしはまだ知らない。



  【終】




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