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「だから、まだ色々決めつけちゃうのは早いって」

 どこか諭すようにも聞こえた、言葉。それにあたしは僅かな反発を覚えて、龍斗の顔を真っ直ぐに見据えた。

「何?」

 龍斗が首を傾げた。あたしは訊ねる。ずっと心の底に巣食っていた問いを。

「ずっと先まで続けて……それでも駄目だと思ったら?」

 どうしても続けていけないと、そう思ってしまったら?

 いつか来る、そう遠くない未来に――後悔を抱いてしまったら?

「そのときは、そのときでしょー」

 やけに明るい声で言い切って、龍斗がにっこりと笑った。真夜中だっていうのに、太陽みたいなその表情を見せられて、あたしはぱちくりと目を瞬かせる。そんなあたしを見て、龍斗は可笑しそうに更に笑みを深めた。

「考えすぎだよ、隼音ちゃん。今から後悔すること、想定してどうすんの?」

 言われて、あたしは顔をしかめた。いつもだったら、こんなふうに諭したり、発破かけたりするのはあたしの役目なのに。すっかり立場が入れ替わってるこの状態が悔しくて仕方ない。

「後で悔いるから『後悔』なんでしょ? そうしたくなけりゃ、今を全力で頑張んないとね」

 そう言って、龍斗はあたしの顔を覗き込んできた。予想外の急接近に、あたしはぎょっとして後退った。――と、ふらりと後ろに身体が傾く。

「――っ」

「おっと」

 バランスを崩したあたしの腕を取ったのは、ついさっきまでポケットの中にあった龍斗の手。後ろに倒れて尻餅をつくという醜態からは逃れることができたが、掴まれた手の感触がどうにも気になってしまい、あたしは居心地悪く身動いだ。硬くて、大きい。あたしのものとは全然違う感触に、またため息をつきたくなる。

(……何だっていうの)

 胸中で呻いてから、掴まれた腕を振った。もう大丈夫だから放せ、と意思表示する。だけど、その手は離れない。それどころか。

「っ! あんた、何やってんのよ!」

 何故か握りこまれた手をぶんぶか振り回して、あたしは近所迷惑もお構い無しに怒鳴った。だけど、龍斗は意に介さない。飄々とした横顔をこちらに見せながら、軽やかな口調で答える。


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