しおりを挟むしおりから読む企画TOP






「……何考えてんの?」

 問い掛けが『どうしたの?』じゃなかったことに、あたしは眉間に皺を寄せた。勘づかれてる。気遣われてる。その事実が、あたしのなけなしのプライドをちくちくと刺激した。けれど、いつもみたいに『別に何でもない』と答える冷えた声が、あたしの口から発せられることはなかった。そうするには、龍斗の声が優しすぎたからだ。

 ――まるで、迷子の子どもに差し伸べられる手のような。

「……ちょっと、行き詰まってるのかも、しれない」

 ごく小さな声で、あたしはぽつりとこぼした。らしくもない、弱音。それを聞いた龍斗がどう思ったのかは分からない。街灯の光が逆光になっていて、表情が窺えないから。小さな変化も気になる反面、助かったとも思った。もしも真っ向から向き合っていたら、とてもこんなこと言えやしない。

「……そっか」

 たっぷりとした間を取ってから、龍斗が息を吐くようにして言った。

「ま、そんなときもあるよね」

 軽い口調だったわりに、その言葉はやけに深く響いた。意外に思って、あたしは目を上げる。

 暗がりの中、穏やかに細められた瞳と視線が行き合ったのが分かった。その目に促されるようにして、あたしは訊ねる。

「あんたにもあるの? そういうこと」

「……俺を何だと思ってるのよ、隼音さん」

 物凄くげんなりとした声が聞こえて、あたしは驚いた。だって、全然、

「そんなふうには見えない」

「うわ、きっぱりと言い切りましたよ! この人!」

 ひっでーの! と言いつつも、龍斗は何だか楽しそうだ。やっぱり見えないわよ。コイツが真面目に悩むことがあるなんて。そう思って、あたしは眉をひそめた。そして、本日何度目かのため息をつこうとして――それを飲み込んだ。龍斗が静かに口を開いたからだ。

「あるよ。俺だって、迷ってないわけじゃないし」

 何を、とは言わなかった。言わなくても分かってるって思ったんだろう。あたしが何に行き詰まってるのか、言わなくても龍斗が察したみたいに。あたしと彼の間には、それを可能にする関係性がある。



- 19 -

[*前] | [次#]






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -