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 冬場が特に忙しいというだけで、門自体は一年中そこかしこで開いてしまう。あたし達がどんなに頑張って塞いでも、人の鬱屈した感情が尽きない限り、また別の場所に門は現れるのだ。はっきり言って、いたちごっこだ。だけどそこからあやかしが出てくる以上、放置するわけにはいかなくて、あたしは今日も【仕事】を続けている。

 無駄なことしてるんじゃないかって思ったことも何度かある。だって、本当にキリがないのだ。人が人である限り、澱んだ感情は必ず存在し続ける。その証拠に、あたしの中にもそれはあって――きっと、これすらも門を開く鍵の一部になっているのだ。いくら誇りを持って【仕事】をこなしていたって、自分自身がこうなんだ。やってることに虚しさを感じたって、仕方ないじゃないか。

(……まだ、始めたばかりだっていうのにね)

 自分で決めてこの道に足を踏み入れたのに、あたしは今更迷ってる。厭だと思い始めてる。この先ずっと生きている限り、この【仕事】を続けなければならないことを。血筋に受け継がれた力と共にあることを。

(こういうこと、考えないのかしら?)

 いつの間にか一歩先を歩いている龍斗の背中を見つめながら、そんな疑問が頭をよぎった。あたしより高さも幅もある後ろ姿は何の躊躇いもないみたいに、どんどん前に進んで行く。迷いのない、真っ直ぐに伸びた背筋。それはきっと、今のあたしとは正反対なものに違いない。

 どんなに振り払おうとしても、やっぱり羨ましいと思う気持ちは消えなかった。小さい頃からいつでも一緒で、同じものを見て育ってきたはずなのに。どうして龍斗は下を向かないでいられるんだろう? いつだって飄々として、鷹揚な笑みを浮かべて、あたしの先を歩いている。――ちょうど今みたいに。

 静けさばかりが際立つ夜道を、何故か楽しげに歩く龍斗。その姿を、あたしはぼんやりと眺めていた。ゆらゆら、ひょこひょこ。頼りない街灯の光に照らされて、龍斗の頭が、肩が揺れている。

 見ているうちに何だかひどく心細くなってきてしまい、あたしは思わず足を止めた。どうしよう。らしくない。何でこんなに不安定になってるんだろう、あたしは。途方に暮れた気分で、その場に立ち尽くす。――と、龍斗が振り返った。反射的に、あたしは肩を揺らす。

「隼音さん?」

 おどけたような軽い口調で、龍斗があたしの名を呼んだ。それから首を傾げる。


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