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 不満そうな龍斗の言葉に、あたしは淡々と返す。仕方ない。――そう、仕方のないことなのだ。人が人である限り、門は何処にだって開いてしまう。別に誰かが望んだわけじゃなくても、澱んだ気は勝手に集まって、その力で門は開いてしまうのだから。

 魔瘴門は現身(うつせみ)に生きる人間の負の感情によって開かれるものだ。怒りや焦り、そして憎しみや妬み。ここまで大げさなものじゃなくても、人間普通に生きていれば誰しもイライラのひとつやふたつ、抱くものだ。だけど門はその程度の苛立ちが糧であっても、簡単に開いてしまう。

 一人ひとりが抱えるものは、そう大したものではない。だが、それが何十人分もの澱んだ感情となれば話は別だ。たかが人間の思いと侮ってはいけない。それが無差別に集まれば、人を蝕む瘴気を生み、それに引かれて小鬼が集まる。そして、その場所の気の均衡が崩れて小鬼以上の力を持つあやかしを人の世に呼び出してしまうのだ。その通り道を、あたし達は【魔瘴門】と呼んでいる。

 あたし達の仕事は、その通り道を塞ぐこと。そして、その門から出てきてしまったあやかしが人間に害をなす前に速やかに処理すること。――そんな仕事を、あたしと龍斗は一年ほど前からやるようになった。

「時期、ねえ……」

 傍らを歩く龍斗が心底厭そうに顔をしかめる。

「ただでさえ、夜に出歩くにはつらい季節になってきたっていうのにさ。勘弁してほしいよなー」

 そう言って、思い出したように身震いしてみせた。微かに吹く風には冷気が混ざってきていて、確かに肌寒い。季節は晩秋。じきに冬になって、年の瀬を迎えて――そうしたら、更に忙しさに拍車がかかるのだろう。そのことに思い至って、あたしはまたため息をついた。はっきり言って憂鬱だ。

「確かに去年の年末は死ぬかと思ったわね……」

「クリスマスも紅白も正月すらもなかったからなー……」

「冬休みに入った途端、昼夜問わずで仕事だったものね」

「年が明けたら受験シーズンだろー? 春が来るまで休む暇もなかったよな。ったく、ばーちゃんもタツ兄も人使いが荒いよ。俺らが高校受験のとき、どうするつもりなんだろうねえ」

 ――そりゃあ、やっぱり。

「『死ぬ気で頑張れ』ってことじゃないの?」

「マジですか」



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