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「お疲れ」

 振り向いた先では、あたしと同じ歳の少年――龍斗(りゅうと)が満面の笑みを浮かべていた。彼は労いの言葉をかけると、自身の右腕を大きく一振りする。すると、その手に携えていた光剣が一瞬の内に姿を消した。ついさっき、何の躊躇いもなく小鬼を斬り捨てていた、光の刃。その青白い光の残像が目に焼きついて、あたしは何度か目を瞬かせた。ちかちかする。

「隼音?」

 龍斗が首を傾げた。

「疲れたか?」

「……そこそこね」

 眉間を揉みほぐしながら、あたしは答えた。【魔瘴門塞ぎ】は神経を使う。この仕事をするようになってから一年近くが経つけれど、疲労の度合いはいつも変わらない。まだまだ修行中の身の上だから仕方ないのかもしれないけど、でも、やっぱり悔しい。あれだけ小鬼を斬りまくって、息ひとつ乱していない龍斗の姿を目の当たりにすると、特に。

「おぶってやろーか?」

 余裕綽々な表情でそう言う龍斗に、その思いは更に増した。あたしは目を眇める。それから言った。

「結構よ」

 すげなく断って、歩き出す。確かに疲れてはいるけど、歩けないほどではないのだ。だから気遣ってもらう必要はない。すたすたと出来るだけ普段通りの速度で歩みを進めていると、すぐに龍斗が追いついてきて隣に並んだ。

 ちらりと横目で確認した肩の位置は、あちらのほうが高い。視線の高さもだ。一年前はほとんど同じだったというのに、今では完璧に追い抜かれてしまった。同じ成長期で同じものを食べてるってのに、この歴然とした差は何なんだろう? 不本意だ。不条理だ。それが男女の差なのだと諭されても、納得がいかない。ずるいと思う。

 あたしを背負えると言いきれるだけの体格も、疲れ知らずのその体力も。それらを持ってる龍斗のことが、あたしは最近ひどく妬ましい。今みたいな仕事の後も、日常の些細なやり取りの中でも、そんな思いが纏わりついて離れない。

 小さくため息をつく。そんなあたしを見て、龍斗は怪訝そうな表情をした。でも、それについて訊ねてくることはしなかった。代わりにぼやくようにして口を開く。

「最近、多くないか? 【魔瘴門塞ぎ】」

「仕方ないわよ。そういう時期だもの」



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