4 しおりを挟むしおりから読む企画TOP 「文句があるなら、そろそろ自力で起きてみろってのよ」 「んー、ムリ」 「何で?」 のんびりと欠伸混じりに告げられたトレインの答え。訝しく思ったリーリエは眉を寄せて訊ねる。するとトレインは紺色の瞳を屈託なく細めて、口を開いた。 「だってリィの手、気持ちいいから」 「……は?」 たっぷり間を置いてから、ぽかんと口を開けて――リーリエは固まった。そんな彼女に構うことなく、トレインはにこやかな笑顔で続ける。 「小さいときに、母さんにしてもらったみたいでさ。リィの起こし方。枕で殴られんのはアレなんだけど……でも、何か懐かしくって」 「……何言ってんの」 思いがけないトレインの言葉に詰まって、リーリエはつっけんどんにそれだけを返した。何よ、『母さん』って。同年代の女の子を掴まえて何言ってるんだ、コイツは。ていうか、手が気持ちいいって……まさか。 「あんた、起きてんじゃないのよっ!」 気づいた瞬間、リーリエは顔を赤くしてトレインを怒鳴りつけた。だが、トレインは飄々として応じる。 「うん。日によってだけど」 「起きてんだったら、何か反応しなさいよ!」 「いや、でももったいないし」 「何がだ!?」 「朝のリィがいちばん優しいから」 枕を持ち出すまでな、と付け加えて言うトレインに、リーリエは思わず胸を押さえる。 ――まさか、気づいてたりするんだろうか。 リーリエの中の、ちょっとした変化に。 こうやって、くだらないやり取りをしてる時間を『悪くない』なんて思い始めていることに。 ――分からないけど、侮れない。 少しだけ速くなった鼓動を落ち着かせようと、リーリエはそっと息をつく。それから何事もなかったかのような表情でトレインを見下ろすと、意地悪い口調で言ってやった。 「ばかなこと言ってないで、さっさと顔洗ってらっしゃい。朝ごはん、食いっぱぐれるからね」 「おう!」 その言葉にトレインは勢いをつけて、ベッドから飛び出した。 そこにあるのは、春の日だまりのように暖かな笑顔。 素直さが足りないリーリエの心を、ほんの少しだけ解きほぐしてくれる。 多分その笑顔が見たくて、つい世話を焼いてしまってるんだろうな、なんてことは。 今はまだ、絶対に秘密なのだ。 【終】 |