3 しおりを挟むしおりから読む企画TOP 「……別に厭なわけじゃないんだけどさー」 元々の性分なのか、リーリエは他人の世話を焼くことが別に嫌いではない。嫌いではないけれど、彼に対してだけは複雑な思いがあって、ついつい文句が先に出てしまうのだ。 「とーれーいーんー」 名前を呼んでみる。さっきより少しだけ、穏やかな声で。すると、トレインの顔がゆっくりとこちらを向いた。 「トレイン?」 起きたのか、と思った。だが、彼の目は閉ざされたまま。それ以上は微動だにしない。 トレインの黒髪に朝の日差しが反射して、光の輪を作り出している。それをつんつんと引っ張って、リーリエは唇を尖らせた。思いの外、柔らかい。何でコイツは男のくせにムダに綺麗な髪をしてるんだろう。まともな手入れなんてしてないに決まってるのに。何かずるい。ものすごく、ずるい。リーリエはふと自分の癖毛に手をやりながら、小さく呟いた。 「……むかつくー」 トレインはリーリエの欲しいものばかり持っている。空を飛ぶ方法も、癖のない綺麗な髪も。時々、それがひどく羨ましくなることがある。妬ましいと思ったこともある。だから他の誰かに対するみたいに、キレイな気持ちだけで優しく出来ないのだ。 「トレイン」 立ち上がり、リーリエはベッドの横に膝をついた。そして、ぺちんとトレインの額を叩く。 「起きなさいよー」 今度は指で、頬をつついてみた。小さな子どもみたいな顔が、僅かにしかめられるさまが面白い。 「……いつもながら、しぶといわね」 軽く毒づきながら、トレインの頭から枕を抜き取る。頭の位置が変わったせいで、トレインが眉根を寄せた。だが、やはり起きない。リーリエはそれを呆れたように一瞥して――それからニヤリとした笑みを浮かべて、枕を大上段に振りかぶった――。 * * * 「リィ……」 「何?」 「……顔中が痛いんだけど」 「あ、そ」 「もうちょっと優しく起こしてくれてもいいじゃんかよー……」 あれから――ふかふか枕の顔面殴打連続攻撃によって、ようやく目を覚ましたトレインはベッドの上で胡座をかいて、赤くなった顔を押さえた。 「だって、これが今のところ、いちばん効果的な起こし方なんだもの」 振りかぶった後、見事に役目を果たしてくれた枕を片付けながら、リーリエは嘯く。 |