晴れたソラに さよならを 3 しおりを挟むしおりから読む 「……ずっりーの」 苦笑気味に呟いて、彼がわたしを見据えた。 「まだ何も言ってねーのに」 「今さらだよ」 だから、言わないで欲しい。そう言外に告げて、わたしはかぶりを振った。 わたしも何も言わないから。このまま、さよならさせて欲しい。 今さら何かを告げられても、始める勇気はないんだ。 気がつくのが、もっと早かったら――違っていたかもしれないけれど。 遠く離れていくキミを思い続ける勇気は、今のわたしにはないから。 ――だから。 「ごめんね」 そっと落とした言葉に、彼がつらそうに眉を寄せた。 「それもずるいだろ」 両目を伏せてぼやくように彼は言うと、再び歩きだす。 縮まる距離。 「ほら」 一歩手前で立ち止まり、彼は手を差し出す。 「これが最後だって言うなら」 そう言って、わたしの手を取った。 「そんなのより、聞きたい言葉があんだけど」 「――そうね」 謝るよりも何よりも、伝えたい言葉があった。 見上げる空と同じくらい眩しくて、まっすぐで、翳りのない笑顔。 それと一緒に心を過る、沢山の思い出。 それは確かにキミと手に入れた宝物。 『ありがとう』 二人同時に口を開いて、わたし達は顔を見合わせた。 そして同時に、声をあげて笑った。 そうして見上げた、早春の空。 それは旅立ちを祝うように、遠く遠くまで晴れ渡っていて。 きっと空を仰ぐたびに思い出す。一緒に過ごした日々を、今この瞬間を。 すべてが愛しくて、誇らしい――そんなキミへの思いを。 気づけなくて、ごめん。 勇気がなくて、ごめん。 だけど、わたしはいつだって願ってる。 キミが自由であるように。その笑顔が曇ることがないように。 ――大好きだよ。 口にしないと決めた思いを繋いだ手にこめる。そして彼と二人、いつまでも空を見上げていた。 その手の温もりを、わたしはきっと一生忘れない。 【完】 |