晴れたソラに さよならを 2 しおりを挟むしおりから読む この場所で、彼はよく笑っていた。 春は穏やかな日差しの下で寝そべって。 夏はまばゆい太陽を全身で抱きとめて。 秋の訪れを知らせる雲に背を向けて。 冬の痛いくらい澄んだ蒼色を遠くに眺めて。 彼という人はいつだって、快活な笑みと広がる青空とに彩られていた。 「なあ」 「……何?」 やたら緩慢な動きで振り向いた彼が、わたしに視線を合わせるのが判った。それを背筋を伸ばして、受けとめる。 「訊(き)いてくんねえの?」 「何を?」 拗ねたような問いに、わたしはわざとらしく首を傾げた。彼が何を言いたいのかなんて、本当は判っている。 判っているけど、自分から触れることはしたくなかった。 そしてしびれを切らしたのか、彼が薄い唇を尖らせて話を切り出した。 「俺、明後日行くんだけど」 「うん」 「見送り、来てくんねーの?」 こちらに歩み寄りながら、彼が訊ねた。わたしは視線を彼に向けたまま、きっぱりと答える。 「行かない」 「――何で」 明らかにむっとした声で彼が言う。それでも、わたしは視線を逸らさない。 「だって」 ――きっと、泣いちゃうから。 淀みなく言い切ったその言葉に彼は立ち止まり、ぐっと黙りこんだ。わたしは口元に笑みをのせて続ける。 「みっともないトコ、見られたくないの」 彼がわたしのことを思い出すとき、それがみっともなく泣きじゃくる姿だったりしたら、あんまりだ。 きっとわたしが彼を思い出すときは、笑顔と青空が最初に浮かぶだろうから。 同じように、彼の記憶の中のわたしには笑顔でいて欲しい。早春の澄んだ空と、温もりの混ざりつつある風とを一緒にして。 そうやって、笑っていられたらいい。 だから今日、今このときを最後にしたいのだ。 |