綱を渡る 4
しおりを挟むしおりから読む






 いつの間にか、それぞれ一人部屋を取るのが当たり前になっていたのだ。旅から旅の根なし草のあたし達には家がない。だから当然、寝るときは野宿か宿の二者択一。仕事を請け負って、そこそこの路銀を稼ぎながらの旅だけど、基本的に質素倹約の暮らしをしているあたし達だから、昔は宿に泊まるときは基本的に同室だった。

 それが、ここ最近は各自個室に泊まるのが暗黙の了解みたくなっていた。や、それはいいのよ。別にさ。あたしだって年頃の女の子ってヤツだし、いつまでも親代わりと一緒の部屋ってのも、確かに周りの目を気にすれば色々と都合が悪いとも思う。ラザレスはあたしの『親代わり』であって『親』じゃないんだから。あたし達の実際の年齢差がどうであれ、見た目だけは若い男女のそれなんだ。誤解されて、変に勘繰られたことも多々ある。だから、別に同じ部屋で休まなくなったことに関しては、別に構わないのだ。

 あたしが引っ掛かってるのは、そういうことじゃない。それをきっかけにして、ラザレスが何を考えたのかってことだ。ラザレスの中の『あたし』がどう変わったかってことだ。

 ――あんたはあたしの保護者でしょう?

 あたしがラザレスに向かってそう言うと、彼は決まって困ったような顔をする。今だって、そうだ。夜空とは対照的な、底抜けの青空みたいな瞳には、困惑の色が浮かんでる。当たり前のことを言われて、そんな顔をするのはおかしい。だって、それが事実でしょ? あたしは嘘は言っていない。

 ラザレスはあたしの保護者だ。親代わりだ。父親であり、兄であり、師匠でもある。そして、あたしは被保護者。彼にとっては娘であり、妹であり、弟子でもある。それが、出会ったときに決められたあたし達の関係性。

 だから事実を指摘されて、そんな顔をするのは反則だ。

 咎めるように視線を向けると、ラザレスは舌打ち混じりにそっぽを向いた。それから額に手を当てて、唸るようにして言う。



- 4 -

[*前] | [次#]






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -