綱を渡る 3
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 ふいと彼から顔を背けて、空を見上げた。きらきらと星が瞬く、夜の空。今日は月がないせいか、いつもより星が冴え渡って見える気がした。遥か彼方から降る光に静かに見入っていると、傍らから深くため息をつく気配がした。

「何が気に入らんのかは知らないが、夜更けに一人で出歩くな。心配するだろ」

 心配、ねぇ。どういう種類の心配をしてるんだか。あたしは胸中で嘆息した。そして、投げやりに告げる。

「ごめんなさい、おとーさん」

「お前なあ……」

 数年振りに口にした呼称に、ラザレスは盛大に顔をしかめた。視界の隅に映った表情は苦虫を噛み潰したみたいになっている。

「昔ならともかく……今の俺とお前の見た目でその呼び方は変な誤解を呼ぶから止めろ」

「変な誤解って何かしらー?」

 嘯くように言ってやれば、ラザレスの表情はますます渋くなった。だから、何でそんな顔するんだ。だいたい、

「別に誤解でも何でもないでしょうが。あんたはあたしの保護者でしょ?」

 あの白い空間で出会って、その手を取ったときにそれは決められた。あたしと彼との関係性。だから、彼はあたしを心配する。夜更けに一人、ふらふらと街に出たあたしを心配して探しにやってくる。それは自然で当たり前のことだから――だから、あたしはその心配を少しばかり鬱陶しいと思いながらも受け入れてきた。それなのに最近は。

(……それはどういう意味での心配なんだっての)

 ラザレスの心配の種類は緩やかに変化していたらしい。本人も気づかないような、無意識なところで。多分、深く静かに。あたしがそれを確信したのは、さっき宿で部屋を取ったときのことだ。



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