連鎖する僕ら 8 しおりを挟むしおりから読む目次へ 大丈夫。大丈夫だよ。 今もまだ、祈るようにして繰り返してる。 卒業式の前日――その放課後の時間帯。わたし、瀬戸初璃はパタパタと軽い足音を立てながら、人気のない廊下を走っていた。 (思ってたより、遅くなっちゃったな) 今日もらったばかりの卒業アルバムを両腕に抱え直して、軽く息をつく。アルバムの表紙裏にメッセージをもらうために校内をうろうろしていたら、結構な時間が経ってしまった。教室では曽根が待ってるっていうのに。怒ってなきゃいいけどと、ヒトより短気な彼の顔を思い浮かべて、わたしは苦笑する。 所属していた美術部に顔を出して少し話し込んだ後、他の友達と連れだって職員室にも行って、先生方にも書いてもらった。今は、その帰り道。一緒にいた子たちとも別れて、わたしは一人、廊下を走る。校内にほとんど人影はなく、咎められることはなかった。 (明日で最後かあ) この校舎を行き来するのも、この制服を着るのも。校舎は古いし、制服だってどこにでもあるようなもので、特に可愛いデザインでもないけど。でも明日が最後だと思うと――やっぱり、寂しいもので。 自分で考えていたよりもずっとこの場所が好きだったんだなって、あらためて思う。 目的地の、自分のクラスの教室が近づいてきた。そのまままっすぐ飛び込もうと、わたしは更に速度を上げようとする。――が、その前に手前の教室から、こちらを呼び止める声がした。 「瀬戸!」 「マミー」 廊下側の窓越しに、マミーこと――クラスメイトの間宮哲が手を振る姿が見えた。わたしは足を止め、そちらに歩み寄る。途中でプレートに目をやると、そこには『3-8』の数字が見えた。隣のクラスだ。 「何してるの?」 首を傾げて問えば、中から他の人の声。 「瀬戸さん」 「初璃ちゃん、いらっしゃーい」 「成瀬くん、美希ちゃん」 中からひょっこり顔を出したのは、最近更に仲良くなったと評判の二人だった。ここは彼らのクラスだから、その姿があっても当然なんだけど。 「まだ残ってたんだ?」 HRが終わってからだいぶ時間が経っているにもかかわらず、8組の教室には他にもまだ数人の生徒が残っていた。マミーみたいに違うクラスの人も混ざってるんだろうけど、ここだけ人口密度が高い。走り抜けてきた校内が静かだったから、余計にそう感じる。 |