連鎖する僕ら 1 しおりを挟むしおりから読む目次へ 不安なんてそれこそ、両手いっぱい溢れるぐらい、ある。 眩しくて、ちょっぴり切ない夏が終わった。 暑さは日毎に遠退いて、朝夕は涼しい風が吹くようになった。少しずつ街の木々も色づいて、秋はどんどん深まっていく。そして、それ以上の早さと重さでのしかかってくる現実。 受験、の二文字。 「……やっぱ、数学なんてキライだ」 呟いて、わたし――瀬戸初璃(せと・はつり)はテーブルに突っ伏した。傍らでは、紙カップに入ったホットココアが甘い匂いを放っている。 げんなりした気分でため息をついていたら、前の席の椅子を引く音がした。目だけを上げて、そちらを見ると呆れ顔の親友がちょうど座るところで。 「キライだろうが何だろうが、必要なんだからやるしかないでしょうが」 そう言って、彼女――藤原冴香(ふじわら・さやか)は手にしていたカップを口に運んだ。中身は多分、ミルクティー。厳しめの発言とは裏腹に、冴香は結構な甘党なのだ。 その彼女から視線を外し、わたしはもう一度ため息をつく。 「分かってるよー……でもさあ、ホント数学さえなければもう少し楽に勉強できると思うんだよー」 「……数学だけ、異様なくらいに出来ないもんね。あんた」 「だって、頭に入ってこないんだもん。脳みそが理解するのを拒否してるっていうか」 「でも必要なんだから、仕方ないでしょ? あんまりぐずぐず言わないの。こっちまで滅入るってのよ」 言って、冴香が顔をしかめる。なので、わたしはまた出そうになっていたため息を、無理やり飲み込んだ。ごまかすように、ココアを飲む。 甘くてあったかい液体が身体中に染み渡っていって、何だか妙にほっとした。疲れたときには甘い物って、やっぱり正しい。そんなことを思いつつ、ふと視線を巡らせる。 秋もすっかり深まった、ある日の放課後。わたしと冴香は二人、教室で勉強していて――休憩がてら、学食へとやってきた。そして、向かい合ってダラダラと話しているわけなんだけど。 |