彼女と夏空少年 しおりを挟むしおりから読む目次へ 只今のわたしの脳内思考を文字変換するとしたら。 画面いっぱいに『ああああああああああああああああ』と延々、表示されるに違いない。 つまり今わたしは、そのくらい動揺しているわけであって。 放課後、学校近くの病院の待合室のソファーにて。 わたし――藤原冴香(ふじわら・さやか)は『診察室』の扉を睨みながら、心の中でおもいっきり毒づいた。 (何考えてんのよ、あのバカっ!) あのバカと、きっぱり罵ってるのは部活仲間の一人である間宮哲(まみや・てつ)のことだ。彼は今、わたしが睨みつけてる診察室で、文字通り診察を受けている。 本来なら野球部の活動に勤しんでいる放課後。その時間帯に、どうして間宮が病院に来る羽目になって、そこに何故わたしが付き添っているのか。 それを説明するには、三十分ほど時間を遡ることになる。 * * * 例年より早めの梅雨入りを迎えてから、毎日続く雨模様。そのため、普段屋外で活動している運動部は校舎のあちこちに散らばってトレーニングに励んでいた。我らが野球部もその例にもれず、二階のホールでメニューをこなしていて。 「そんじゃ、この後は一旦着替えて、階段教室集合なー」 主将である成瀬(なるせ)の号令に従い、部員たちはぞろぞろと移動を始める。今日は軽く筋トレをして、この後はミーティング。わたしは今年新しく入った後輩マネジに階段教室の鍵開けを頼み、自分は細々した道具をカゴに片付けて、部員たちの後に続いた。 カゴの中身はストップウォッチとかノートとか、そういうものでいっぱいで、それなりにズシッときた。まぁ、三年目になるんだから今更騒ぐような重さでもないんだけど。 よいしょっと抱え直しながら、わたしは慎重に歩を進めた。 リノリウムの床は雨の日は滑りやすいのだ。油断して、つるっといったら流石に恥ずかしい。まだ周りには、部員がいることだし。 急いで行ったところで、部室は着替えをする彼らに占拠されるわけだし。のんびり行けばいいやと、わたしはぼんやり思いながら階段を降りていった。 その『ぼんやり』がいけなかったらしい。 |