カップケーキ戦争 4 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「分かってたつもりで……判ってなかったこともいっぱいあったみたいだ。悪かった」 でもな、――彼はそう続けると、困ったようにわたしの向こう側を見た。すなわち、それはあのコのほうを見たってことで。 わたしは曽根から手を放し、勢いよく彼女のほうを振り向いた。 彼女は呆気に取られた様子で硬直していたけど、わたしと曽根が見ているのに気づいて慌てて口を開く。 「ゴカイなんです、瀬戸センパイ!」 「誤解……?」 不信感満載の声で、わたしは訊き返した。彼女はぶんぶんと何度も頷くと、懸命に説明を始める。 「前に渡したケーキは、ホントにお礼で! その、曽根センパイには色々と協力してもらったコトがあって!」 「協、力」 「そうなんです! だから瀬戸センパイが心配されるようなコトはなくて! ……コレも」 訝しげな視線を向けるわたしに対し、彼女は持ってた紙袋を指し示す。 「曽根センパイにじゃなくて、その……」 急にゴニョゴニョと言葉を濁す彼女。ちらりと気にするのは、周囲の視線。 「あ」 そのうちのひとつと目が合って、わたしはようやく我に返った。そうだ。公衆の面前だったんだ。すごい今更だけど。 自覚した途端、かあっと赤面するのがわかる。背後で曽根が深いため息をつくのが聞こえた。――そんなところに。 「おーい」 すたすたと早足でやってきたヒトがいた。男の人だ――って。 「あ」 そのヒトと目が合って、わたしは呟く。すると相手は明るい笑顔をこちらに向けてきた。 「初璃ちゃんじゃん」 「ど、どうもです」 それは先日わたしと曽根がつきあうにあたり、厄介な発言を投下して事態をややこしくして下さった先輩だった。そういえば名前は知らないや。 ちょっと居心地悪く挨拶すると、彼は苦笑しながらまくし立てる。 「こないだはゴメンねー。いらないこと、言ったみたいでさ。でも曽根と仲良くやってるみたいで安心したよ……って、あれ?」 そこまで言って、先輩はこの場の異様な雰囲気に気がついたらしい。きょろきょろと辺りを見回すと、いちばん手近な場所にいたわたしに訊ねてくる。 「俺、曽根に呼び出されて来たんだけど……お邪魔だった?」 「え、と」 「イエ」 何と答えていいものか困ったわたしの代わりに、曽根がいつもの低い声で応じた。それにわたしと先輩、二人分の目が向く。 曽根はそれを真っ向から受けて、普段通りの落ち着いた態度で口を開いた。 「用があるのは彼女ですけど」 そう言って、曽根はあのコを示した。すると彼女は可哀想なくらいビクンと肩を揺らす。 「あ、あのっ」 そう言った声はさっきよりも数段うわずったものだった。耳まで真っ赤になって、目も心なしか潤んでいるような。 |