カップケーキ戦争 3 しおりを挟むしおりから読む目次へ 息を切らせるほど長い距離ではないけど、だいぶ焦ってたんだと思う。心臓がやたらドキドキするのを感じながら、わたしは近くの植え込みから辺りをこっそり見回した。 フェンスの向こう側では、よく見知った野球部の人たちが賑やかに雑談していた。その中にマミーや冴香、そして曽根の姿もある。 問題の彼女は彼らのほうを見て、ゆっくりとそちらに近づいて行った。その気配に気がついたのか、曽根がちらっと目を向けた。――そして、気安く片手を挙げると彼女のほうに歩いていく。 (あ) フェンス越しに会話する二人を目にして、息苦しくなるのを感じた。やっぱり見にこなきゃ良かったなんて、後悔したくなる。 曽根は彼女と二言三言、会話すると、頭を掻きながら出入口へ向かった。まだ話は終わりじゃないらしい。 ギュッと植え込みの枝を握りしめて見張っていると、ふと彼女が手にしているものが見えた。 それは、見覚えのある紙袋。 握りしめていた枝がポキリと折れた。 わたしはゆらりと立ち上がる。そこに「あれ瀬戸サンじゃない?」という声が聞こえたけど、スルーする。悠長に挨拶している余裕なんかない。 肝心の曽根は気づかずに、グラウンドから駆け足で彼女の元にやってきた。向かい合って、また言葉を交わす。何となく彼に元気がないようにも思えたけど、そんなのもう知ったこっちゃない。 彼女は一度はにかんだように笑うと、曽根に紙袋を差し出した。 その瞬間、わたしは両足を踏張って大声で叫んだ。 「ダメーッ!!」 そして周りの人たちの驚きも気にせずに、わたしは彼の前に飛び出した。 【続】 |