臆病すぎた卑怯者 1 しおりを挟むしおりから読む目次へ あの日わたしは、大切な人をなくしました。 そして、君に出会いました。 あの日は、とても寒い日だった。空も空気も胸が痛くなるくらい、澄み切っていて。 違う。胸が痛かったのは、それが原因なんかじゃなくて。 「――っく……」 わたしは学校のグラウンドの片隅で、ずっと膝を抱えて泣いていた。その脳内に何度も何度も繰り返されてたのは、電話から聞こえたお母さんの言葉。 『初璃! 有ちゃんが事故にあって……もう……っ』 ゆうちゃん、ゆうちゃん。 ずっと憧れてた人。大好きだった人。 大切すぎて何も伝えられないまま、逝ってしまった。 好きのキモチも、感謝の言葉も。 有ちゃんは二つ年上のご近所さんで、小さな頃からわたしの面倒をみてくれていた人。どちらかというと人見知りするタイプのわたしは、物心ついたときには常に有ちゃんの後をついて回っていた。お兄ちゃんを慕う妹。周りからは、そんなふうに見えていただろう。だけど実際はわりと早い時期から、わたしは有ちゃんが大好きで大切で―――たぶん、恋をしていた。 時が経って、有ちゃんは私立の男子高に、その二年後にわたしはその近くの共学の高校に進学した。さすがに幼い頃と違って多少疎遠にはなったけれど、会えば変わらない優しい笑顔を向けてくれる―――その距離に、わたしは安心していた。 もう少ししたら想いを伝えてみようかな。 胸に積もった『ありがとう』と『好き』の欠片たちを、ちゃんと言葉にして伝えたい。 ――それが叶うことは、もうなくなってしまったけれど。 そう思った途端、また涙が溢れてきた。どんだけ出てくるんだろ。いっそこのまま干からびてしまえないかなあ。そしたら有ちゃんに会えるかしらなんて。 そのとき、虚ろなわたしの思考を現実に引き戻すみたいに何かが飛んできた。 それはトスっと音をたてて、わたしの傍らに落ちる。 |