カップケーキ戦争 3
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「そういうキモチはあったっていいんだよ。汚くもないし、間違ってもないって俺は思う」

 マミーの口調はとても優しい。その声を聞きながら、少しずつ尖っていた心が丸くなっていく。

 そしてふと、わたしは冴香のほうを見た。彼女は何だか複雑な表情をしてマミーを見つめていた。だけどわたしの視線に気がつくと、ぱっと彼から目を外す。そして、こちらを見て軽く微笑(わら)った。

「言ったでしょ? どうしたって、折り合いをつけて付き合わなきゃなんないキモチだって」

「……うん」

 彼女の言葉にわたしは頷く。

 目を背けたいと思う、どんなにキタナイ感情も。全部自分のものなんだから。

「ただ今回は曽根にも問題大有りよ! 初璃は一回、ちゃんと言ってるんだから。もう少し考えて行動してくれないと」

「我が友ながらタチ悪いよなあ、ホント」

 冴香はぴしゃりとした口調で、マミーは苦笑をさらに深くして言った。そして彼らは互いに頷きあうと、揃ってわたしのほうを向いた。

 その真剣な表情に思わず身を固くする。

 冴香が口を開いた。

「ぶっちゃけね、アンタがつらい思いをしたくないなら辞めちゃってもいいんだよ」

 その言葉に、わたしは目を見開いた。頬を強ばらせて冴香を見つめる。彼女は表情を変えないまま、淡々と続けた。

「そりゃ、あれだけ大騒ぎしてつきあい始めたんだから最初はまたウワサになって大変だろうけど。曽根の鈍さは天然物だもの。そんな簡単に治るわけないし? イヤな思いしてまで、つきあうことないんじゃないの?」

「……違うよっ!」

 冴香の言い分に、わたしはガタンッと椅子を鳴らして立ち上がった。ぶんぶんと、かぶりを振って反論する。

「別に曽根がキライになったわけじゃない! 昨日はイライラしたけど、そんな簡単にキライになったりしないよ!」

「でもヤなんでしょ?」

 冷静な口調で言う冴香。だけどわたしは必死になって訴える。

「イヤだったけど! ……でも」

 曽根が知らないオンナノコと話してるのを見るのがイヤだった。そのコの好意に無頓着で、何も気がつかない彼の鈍感さもイヤだった。

 だけど、もっとイヤだと思ったのは、わたし自身だ。

 カノジョなんだから堂々と出ていけばいいのに、いじけて隠れて。挙句、彼に憤りをぶつけただけの自分。彼に嫌われるのが怖くて、結局言いたいことの半分も伝えられない自分。嫉ましいとか悔しいとか寂しいとか、そういうキタナイ感情から目を逸らそうとあがいていた自分。

 ――こんなワタシじゃ、曽根に好きでいてもらえない。


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