不可解な彼女 5 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「嫌ってるわけじゃねーよ」 それだけ告げて、俺は歩く速度を早めた。ちくしょー。駐輪場がやけに遠く感じる。 しかし、哲はまだ食い下がってきた。てめえ、しつこいぞ。 「瀬戸かわいいじゃん。あんなに顔赤くしてさー。お試しでもいいから、付き合ってみればー」 「あほか」 顔を赤くして、真剣なヤツに『お試し』でなんて言えるかよ。頼まれてもないのに。 ――そうだ。頼まれて、ないんだ。 唐突に、何かがストンと俺の中に落ちてきた。自然に足も止まる。 「……タカ?」 哲が追い抜きざまに、俺を振り返る。 「ンだよ……っ」 「えっ? 俺何かしたっ?」 絞りだすみたいに唸った俺の声に、哲が慌てて後ずさった。しかし俺はそれには構わず、足音も荒く再び歩き始めた。 何なんだよ。 わけわかんねえぞ、瀬戸。 俺を好きだと言った瀬戸。 顔を赤くして、俺を見上げる瀬戸。 だけどアイツは何も俺に言わなかったんだ。 好きか嫌いか問うことも、付き合ってほしいと望むことも。 告白されてから今までに、アイツがそこに触れたことはない。 「わかんねえ」 言葉を口にしたら、苛立ちが増した。哲がまた、びくりとしたのが気配でわかる。 ――瀬戸、お前さあ。 ――俺にどうしてほしいんだ? 告白されてからこっち、俺の中で渦巻いていたのはその疑問。 瀬戸がわからない。 それが俺を、何より苛立たせる。 だけどそれよりもっと、俺をイライラさせるのは――俺が未だに、瀬戸に返せる答えを持っていないってことだった。 ダメだろ、こんなんじゃ。 俺は大きく大きく息をつくと、思い切りよく空を仰いだ。 痛いくらい眩しい、夏空は。 直視できないアイツの笑顔によく似ていた――。 【続】 |