カップケーキ戦争 1
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「そこでジュースを突き返さないあたり、まだ甘いわね」

 散々ヒトをけなしていたわりに、話はちゃんと聞いてくれてた冴香がそうコメントする。わたしは言葉に詰まり、手元の紙パックに視線を落とした。

 曽根が奢ってくれた、大好物のイチゴ牛乳。それなのに飲む気にならなくて、まだ開けていない。ピンク色の可愛いパッケージが、今は何だか色褪せて見える。

「労働報酬だもん……」

 さっきまでの勢いが嘘みたいに、わたしは弱々しく呟く。正面に座った冴香が大きなため息をついた。

 あの後、曽根に背を向けたわたしが向かったのは隣のクラスの彼女の所だった。そして、食事をしながらスコアブックを見る冴香(行儀が悪いぞ)に、事の顛末を話して聞かせたのだけど。

「……ああいうのって、マンガだけかと思ってた」

「ま、あんまり見ない光景よね」

 ついに仕事の手を止めて応じてくれた彼女に、わたしは心の中で手を合わせる。ありがとう冴香さま! 持つべきものは、やっぱり友達ですよね!

 そう思ってキラキラした視線を彼女に向けると、物凄くイヤそうな顔をされた。

「やめなさい、その目」

「だって嬉しいんだもん」

 口は悪いけど、冴香は根っこの所は優しい。それに頼りになる。今の情けないダメダメなわたしには、救いの手以外の何物でもない。

 わたしがニコニコしながら見ていると、冴香は呆れた表情で頬杖をついた。

「さっきの落ち込みようは何だったのよ」

「曽根のことなんかより、冴香との友情のが大事」

「それを本心で言ってるんなら、たいしたもんだけどねー」

 その言葉に、目を逸らす。

 はい、どうでもいいわけないですね。

「……で、結局何をどうしたいのよ?」

 たっぷりと沈黙が漂った後、冴香が口を開いた。わたしはイチゴ牛乳を机の脇に置いて、その横に突っ伏する。

「うーん……」

 ぴたりと額を机にくっつける。あ、冷たくってキモチイイ。だいぶほてり気味だった思考が、冷やされていくのが判る。

「どうしたいっていうかさ」

 なんか、落ち込むなあ。

 そう呟いたわたしに冴香が問うた。

「何に?」

「かわいくない自分に」

 言って、顔を上げるわたし。すると冴香は姿勢を変えないまま、あっさりと言う。

「しょうがないんじゃないの、それは。仮にもカレシという立場にある人間が、自分をパシらせてる間に後輩と仲良くしてました、っていうんじゃ」

「……客観的に聞くと、よけい悲しくなるよね」

 思わずガクリとうなだれる。だけど事実は事実。そりゃ、不可抗力なのは分かってる。偶然、そんな展開になっただけなんだ。冷静に考えれば考えるほど、あんな態度をとった自分を殴りたくなる。


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