カップケーキ戦争 1 しおりを挟むしおりから読む目次へ 思ったとおり、頭を掻きながら彼はわたしを見下ろしている。 「……今日だけだからねっ」 手にした硬貨を握りしめて、わたしが唸るように了承すると、曽根がほっとしたように言った。 「サンキュ」 お礼の言葉と一緒にくれたのは、最近よく見せてくれるようになった穏やかな笑顔。このカオを見たら大抵のことがイヤでなくなってしまうわたしは、きっとどうかしてる。 そして『コーヒーと惣菜パン』という曽根の注文を承ったわたしは、一足先に教室を出た。そこでまた、あのコ達と目が合う。 「今、来るから」 その言葉に彼女たちは軽く会釈してきた。 そしてすれ違う。その瞬間にまた香る焼き菓子の匂い。 ……やっぱ、そういうことなんだろうか。 思いついた可能性を無理矢理頭の中から払い落として、わたしは学食に向かった。 それからわたしは、曽根ご所望の品物を何とか手に入れて、急ぎ足で戻ってきた。 そこでわたしが見たもの。それはどう考えても彼には不似合いな可愛らしい袋を持って立つ、曽根の姿だった。 ……やっぱり、ですか。 その袋には見覚えがあった。だってそれは、さっきの彼女たちの内の一人が後ろ手に持っていたものだったんだから。 それを、曽根が持っているということは。 (……むか) 事実を事実として認めた瞬間、わたしは手にしたコーヒーの紙パックを握り潰してやりたくなった。もちろん、理性を総動員して止めたけど。 視線の向こうには、袋を手にしてぼーっとしている曽根がいる。まだわたしには気づいてないらしい。なので、必死に深呼吸して気を落ち着ける。 そんなことをしていたら、ようやく曽根がわたしに気がついた。 「あ」 「どうしたの? 珍しくぼーっとしちゃって」 いつもと同じように、へらりと笑う。そして何気なく、彼の手元に目をやった。 「どしたの、コレ」 「あー」 わたしの問いに、曽根は少々困惑したように答えた。 「何か……お礼だって」 「さっきのコ達、知り合い?」 胃だか胸だかのムカつきを抑えながら、わたしは笑顔を作り続ける。当たり前だけど、曽根は気づかない。 「委員会で一緒だった」 訊かれたことだけ、簡潔に答えてくれた。それを聞いて、わたしの口が勝手に動く。 「それだけ?」 「あ?」 「ソレ、お菓子でしょ?」 「あー何か、調理実習で作ったカップケーキだって」 「受け取ったんだ」 「は?」 「パンなんかいらなかったんじゃない?」 畳み掛けるように言った最後、わたしは曽根にパンとコーヒーを押しつける。 曽根はというと、わたしの勢いに圧されて目を白黒とさせた。だけど、すぐに我に返って眉をひそめる。 「何だよ、いきなり」 「何だよじゃないわよ」 今までになくつっけんどんにわたしが言うと、曽根は怒るよりも戸惑ったみたいだった。その変化に、少し胸が痛む。 痛んだ、けど。 やっぱりムカつきは治まらなくて、一言言い捨てて立ち去った。 「ジュース、ごちそうさまっ!」 * * * |