カップケーキ戦争 1 しおりを挟むしおりから読む目次へ 疑問には思ったものの、無下にするわけにもいかないので、わたしは向き直って彼女たちに言った。 「中でお弁当、食べてるけど?」 「呼んでもらってもいいですかー?」 ニコニコとその中の一人がそう言った。後ろで手を組んで、何か持っているようだ。 ――なんかイヤな予感がするんだけど。 そうは思ったけど、断るわけにもいかず、わたしは頷いて教室の中に戻った。そして、ぱたぱたと小走りで窓際前列の席に向かう。 「曽根」 「あ?」 その席の主である彼――曽根隆志(そね・たかし)がお箸を片手に振り返った。 「何?」 食事を中断させられたのが気に障ったのか、素っ気ない声で応対される。一応、彼女相手なんだからもう少し何とかなりませんか? だけどそんなことを言ったって、俺様な曽根には通じないだろう。仕方なく、わたしは用件だけを手短に伝えることにした。 「一年の女のコが呼んでるよ」 「はあ?」 あからさまに訝しげなカオで、彼はわたしを見上げてくる。 「何の用?」 「知らないよー。直接訊(き)いてください」 わたしがそう答えると、曽根は何やらぶつくさ言いながら箸を置いた。そしてとてもとても面倒くさそうに立ち上がる。 「お前、どこ行くつもりだったの?」 目線の位置が逆転したのと同時に、曽根が訊ねてきた。わたしは手にした財布を軽く叩きながら答える。 「学食に、ジュースを買いに」 「俺にも何か買ってこい」 「……パシリじゃないんですけど」 あまりに偉そうな言い方に、わたしは唇を尖らせた。すると曽根はズボンのポケットから、自分の財布を取り出す。 「ギブアンドテイク、な」 そう言って笑いながら、わたしの掌に硬貨を落とす。その金額を見て、わたしは首をかしげた。 「ジュース一本分にしちゃ、多くない?」 「パシリ代込み」 おや、奢ってくれるなんて珍しい。だけど。 「それにしたって多いでしょ」 手渡されたのは百円硬貨が四枚。ジュース二本を買うには多すぎる。 「テキトーにパン買ってきて」 「えーっ」 彼の回答に、わたしは不満の声をあげた。 昼休みの学食――特にパン屋さんがお店を出してるところは、とても混んでいる。それこそヒトより小柄なわたしなんか、埋もれてしまうくらいに。 かよわい彼女に何をやらせるんですか、アナタ。 ムッとした表情でわたしが見上げると、曽根はしれっとした口調で言った。 「だから奢るって言ってんじゃん」 「ジュース一本じゃ割に合わない」 ぷいっと顔を背けて応じる。曽根はあの人混みにもみくちゃにされる恐怖を知らないから、軽く言えるんだ。 「だって弁当だけじゃ足りねーし、呼び出されてるし」 「……」 ちょっと困ったような声で、曽根が言う。何だか妙な罪悪感を感じて、わたしは再び曽根のほうを見た。 |