カップケーキ戦争 1 しおりを挟むしおりから読む目次へ わたしの彼は、ただいまモテ期らしい。 高校の授業には家庭科というものがあって、その中には調理実習の時間がある。さらにその中に回数は少ないけれど、製菓の授業もあったりするわけで。 だから上手に出来たものをラッピングして、誰かにあげようと考える女子がいてもおかしくはない。 だけど。だけども! 「その光景を目の当たりにするとは思わなかった……」 わたし、瀬戸初璃(せと・はつり)はブスッとして呟いた。それに対して正面に座った友達が、顔をしかめて言い放つ。 「言いたいことは、それだけ?」 「いーえっ! まだあります!」 「聞きたくない」 食い下がったわたしから目を逸らして、両耳を塞ぐ友人・藤原冴香(ふじわら・さやか)。わたしは両手で机をベシベシ叩きながら、言い募る。 「友達甲斐がないです、冴香さん!」 「そんなウザイ友情はいらん」 冴香はきっぱりそう言って、手元のスコアブックに目を落とした。 「わたしは週末の試合の準備で忙しいの。愚痴るだけなら他を当たんなさい」 校内一有名なバカップルの話なら、みんな喜んで聞くわよ。 ……何て意地悪な言い方だろう。そりゃ冴香が部活に熱心で、忙しいのも知っている。だけど傷心の友人相手に、こんな言い方することないでしょうが! でも、やっぱり冴香を怒らせると怖いので。 「……バカップルにだって、悩みくらいありますー」 そう呟くのが精一杯だった。 情けないぞ、わたし。 * * * 普段、滅多なことではイライラしない(逆にイライラさせるほうが上手いと評判だ)わたしがエキサイトしているのには、ちゃんとした理由(ワケ)がある。 事の起こりは、昼休みが始まって間もない時間のことだった。 「曽根(そね)センパイ、いらっしゃいますかー」 教室の後ろのドアから廊下に一歩踏み出したところで、わたしは呼び止められた。 聞いたことのない、甘ったるい女のコの声。そして鼻孔をくすぐるお菓子の匂い。 見ればそこには三人連れの、わたしより背の高い、見たことのない女のコ達の姿。それぞれ長い髪を緩く巻いて、メイクもばっちりキメている。 (……何かこっちが後輩みたいだ) 彼女たちの校章バッチのラインが一年生のものだと認めて、わたしは内心でため息をついた。 はっきり言って苦手なタイプ。 そんなコ達が、一体曽根に何の用だろう? |