それは一生の秘密事 5 しおりを挟むしおりから読む目次へ ――だから謝ったのよ。 えらく無愛想に吐き出された言葉に、俺は思わず吹き出した。 「冴香チャンかわいー」 「名前で呼ぶな、チャン付けすんな!」 苦々しい表情で、俺を見返す藤原。けど、俺の笑いはそう簡単に治まらなかった。 「どうしよ。俺ちょっと、ときめいちゃった」 「逝っとけ、アホ」 藤原は容赦なく、俺の言葉を突っぱねる。だけどこんな珍しい機会、そうそうあるわけない。なので、もう少しイジらせてもらう。 「えー俺のハナシばっかでズルイじゃん。藤原も何か話せよー」 「ない」 「嘘だあ」 「しないもの」 しつこく絡む俺に、藤原はキッパリと言い放つ。その生真面目な表情に虚を突かれて、俺は口をつぐんだ。 そんな俺を見て、彼女は不敵に笑う。 「三年間は恋愛禁止って決めてるの。だから、しない」 「ナンデ?」 ポロッとこぼれた問いかけに、彼女は清々しいほどあっさりと言った。 「だってマネジは、皆のマネジでなきゃでしょう?」 わたしは真剣に野球やってる奴らの力になりたくて、マネジやってるんだから。 そう言って胸を張る藤原を見て、ふと思い返す。 練習中の彼女は厳しい。キツイことでも正しいと思えば、迷わず口に出す。それでタカとやり合うこともしょっちゅうだ。 だけど、それは誰に対しても同じで。誰にも媚びないし、揺るがない。 ウチのマネジは、そういうマネジ。 「……男前だね藤原サン」 「何だかすごくバカにされたような気がするんだけど」 「いやいやいや」 そんなこと、あるわけないだろう。 胡乱げな眼差しを向けてくる藤原に、俺は全力で否定した。 だって、それってさ。 藤原は野球部のために、青春捧げちゃうってことだろう? その中には俺も含まれてるわけで。 そういうことを堂々と言い切れちゃうって、スゴいことなんじゃない? 恋するだけが青春ってわけじゃない。 それをまざまざと見せつけてくれる彼女は相当カッコいい。 |