それは一生の秘密事 4
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 傷つきたくなかったし、傷つけたくもなかった。俺が別のカタチで二人の間に介入していたら、たぶん目もあてられないほどドロドロな事態になっていたに違いない。そうまでして、想いを果たすほどの気持ちではなかったんだと思う。

 それに。

「かなわないなーって思ったんだよ」

 あのとき。瀬戸が逃げ出したときに、窓枠を飛び越えて彼女を追っかけてったタカを見て。

 悔しいけど、かなわないと思ったんだ。

 俺の気持ちはそこまで強いものではなかったんだと、思い知らされた気がした。

「だから謝ってもらう必要ないし、後悔もしてないの」

 ニッと笑ってそう締め括ると、藤原は特別感慨もない様子で「ふーん」と呟く。

 彼女のそういう態度が、今は有り難かった。

 暫し漂う沈黙。俺らは二人して並んで、タカと瀬戸が来るのを待った。俺がだらしなくしゃがんでいるのとは対照的に、藤原はきちんと背筋を伸ばして座っていた。隙のないその姿がとても彼女らしい。

 何とはなしに彼女を眺めて、ふと浮かんだ問いを口にした。

「それにしても、俺が瀬戸を好きだなんて……よく分かったよなー」

「……アンタも言ったでしょ?」

 ハタで見てる人間のが色々と気づくものだ、と。

 藤原はそう言って俺を見た。

 その目の強さにドキリとする。

「見るっていうか、観察するのが習慣なのよね。ウチの部員の調子を把握するのに」

「……ソッチですか」

 あくまで淡々とした彼女の科白に少しがっかりして、俺は力なく返す。

 マネジとしての意見なわけね。

 やれやれとため息をつくと、藤原が咎めるように言ってきた。

「何、不満なの?」

「イエ光栄ですけども」

 藤原相手に色気のある答えを期待するのは無謀だったか。俺が内心で深く思っていると、また彼女が口を開く。

「……だから!」

 珍しく歯切れの悪い様子に、俺は藤原を見上げた。

「わたしの無理矢理な頼みで、アンタの気持ちを殺しちゃったかと思って……それで調子崩されても困るし。一応エースだし」



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