それは一生の秘密事 3 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「アンタが初璃に言った科白を聞いて、かな。あの後、あのコが教えてくれたのよ」 「へえ……」 「おふざけナシで、すごい親身になってくれたって。あのコ喜んでたけど」 でも、何か引っ掛かって。 藤原はゆっくりと背もたれに寄りかかった。そして一息つくと、改めて口を開く。 「あれだけ頑なになってた初璃の気持ちを動かすのに、中途半端なコトバじゃ通用しないでしょ」 静かな口調で藤原は続けた。 「よっぽどあのコのことを思って口にしたコトバじゃないと、ああまで感動しないんじゃないかって。……考えてるうちに思ったのよね。わたし、アンタに酷なことを頼んだんじゃないかって」 ――だから、ゴメン。 そう言って、藤原は潔く頭を下げた。俺はぽりぽりと頬を掻く。 「謝ってもらうほど深刻なハナシじゃないんだけどね」 「……そうなの?」 いつも通りの軽い物言いの俺に、藤原はぱっと顔を上げた。微かに頷き、俺は肩をすくめる。 「そうでなかったら、いくら何でもあんな真似はしないって」 わざわざ自分で自分に引導を渡すような――好きなコと自分の親友の仲を取り持つなんてこと。 「マゾでなきゃできないでしょー」 「そうじゃないの?」 「ひどいねー藤原サンは」 意地悪げに訊ねてくる藤原に、俺は苦笑して返す。するとつられたように、彼女も笑った。その表情が普段目にするより随分と柔らかく見えて。 何となく、聞いてほしくなった。 一生誰にも言うつもりのなかった胸の内を。 「……フツーにいいコだと思ってたんだよ」 断りもなく話しだした俺に何を言うでもなく、藤原は姿勢を正して耳をかたむけてくれる。 「でも瀬戸は、はじめて会ったときからタカしか見てなかったから」 自分の感情に、素直で正直な瀬戸。そんな彼女のことだ。少し注意して見ていれば、その想いが誰に向けられてるのかなんて丸分かりだった。気がつかなかったのは、あの致命的に鈍い王子様のみ。 「自分に気持ちを向けさせようとか、思わなかったの?」 「いや」 藤原の問いに俺は即答した。 「だってタカの気持ちもすぐ気づいちゃったし。ハタで見てる人間のが、色々分かるでしょ」 そういうのに敏感なのも考えものだ。 あのときは、本人より先に気づいてしまった察しのよさを呪いたい気分になった。 だけど、結局。 「割り込んでまで、手に入れようとは思わなかったな」 視線を落とし気味に呟いて、俺はすぐにかぶりを振った。 「違うか」 思い当たって、言い直す。 「痛い思いしたくなかっただけなんだろうな、きっと」 |