そして今日も空は晴れて 4 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「なあ」 「ん?」 その声にちらりと目を向ける。すると、曽根はクンクンと鼻を鳴らしながら言った。 「お前、どこに行ってきた?」 「へ?」 「線香臭い」 「うええっ?」 思わず立ち止まって、自分のブレザーの匂いを確認する。曽根は呆れたようにわたしを見下ろして、隅のほうへ引っ張っていく。 「通行のジャマ」 「ごめんっ」 謝りながらもわたしは確認作業をやめない。ホントだ。確かに線香の匂いがする。そんな長時間、あそこにいたわけじゃないんだけどなあ。うわ何かショックだ。 わたしが呆然としていると、隣から深いため息が聞こえた。 「で、何しに行ってたんだ?」 「えーと……」 何となく言い淀むけど、隠したって仕方ない。わたしは正直に話すことにした。 「お墓参り、です」 「……ああ」 わたしの答えに、曽根は軽く頷いた。その後、二人して沈黙してしまう。 冴香もマミーもわたし達が止まったことに気づかないで、先に行ってしまった。だから、この微妙に気まずい空気を何とかしてくれる人はいない。 自分で何とかしなくちゃ。 まだまだ甘えた根性を叱咤して、わたしは曽根を見上げた。そして思い切って、口を開く。 「あの……」 呼び掛けに、曽根がこちらを向いてくれた。真っ直ぐな視線がわたしを捉える。そこに怒ってる様子は見られなかった。ただただ静かな黒い瞳が、わたしを見下ろしている。 「えーと」 謝るのは何か違う感じがするし、かといって何を言えばいいのか全く思いつかない。わたしが一人ワタワタとしていると、ぽんっと頭を叩かれた。 上目遣いで曽根を見ると、何だか困った表情をして口を開く。 「ンなカオすんなよ」 「え?」 思わず両手を頬に当ててしまう。そんなわたしを眺めながら、曽根は更にぽんぽんと頭を叩いてくる。 「何か、すげー必死」 いや、必死にもなるってば。 この微妙な空気を思ったほど気にしてなさそうな様子の曽根。何かわたしばっか不安がって、ばかみたい。頬を膨らませて黙りこむと、それに気づいた曽根が今度は自分の頭に手をやって言う。 「あーでも、俺のせいだよな。……わりィ」 「え?」 何のことだか分からなくて、疑問の声をあげるわたし。彼はぽりぽりと頭を掻いて、僅かにわたしから視線を逸らす。 「俺が気にすると思って、言いにくかったんだろ?」 やっぱ、見抜かれてる。そしてまた気を遣わせてるんだと思うと、自分が情けなくなってきて、わたしは再び肩を落とした。ついでに下を向いてしまう。 「情けねえよな」 そこにぽつんと落とされた呟き。わたしは、はっとして曽根を見た。 曽根はひどく優しい表情で、わたしを見下ろしている。 |