その手をつかまえろ! 7
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「忘れなきゃって、思い詰めなくてもいいよ。その気持ちだって、今のお前の大事な一部分だろ」

 その気持ちはきっと『瀬戸初璃』という人間を形づくる、とても重要な欠片。――だから。

「無理するとか、俺に悪いとか考えないで……その人のこと思い出すたびに、泣きそうなカオすんじゃなくてさ」

 ちゃんと伝わってるだろうか。間違えていないだろうか。

 走ってたときと同じくらい必死になって、俺は言葉をつないだ。

「笑って思い出せるようになれよ」

 それが俺が欲しいと思った、瀬戸の笑顔なんだ。

 そこまで言い終えて、俺は真っ直ぐ瀬戸を見つめた。瀬戸はまた俯いて、嗚咽を堪えているようだった。

(……まだだ)

 俺は空いてるほうの手を握りしめる。まだ俺は、肝心なことを瀬戸に伝えていない。

 たった一言。

 だけど、それを声に出すことはとてつもなく難しい。

(瀬戸ってすげぇ)

 何度もその言葉を、想いを俺に伝えてくれた彼女。嘘くさくもなく、わざとらしくもなく。そうやって相手に想いを届けることがどれだけ難しいことか。

 口を開いては閉じて何度も俺が躊躇っていると、不意に瀬戸が顔を上げた。

「わたしっ」

 そう言って俺を捉えた瞳は、いつかのときみたく決壊寸前だった。瀬戸は懸命に涙をこらえながら言った。

「いっぱい考えて、だけど忘れられなくて」

 俺は黙って頷いて、先を促す。

「やっぱり気持ちは残ったままだった……大切なこと言えなくて、後悔して」

 でもね、と彼女は震える声で続けた。

「それ以上に思ったの。わたしの中に、変わらないで在ったの……曽根が好きって。それも、わたしの大切な一部分だよね」

「――っ!」

 声をなくすなんてこと、ホントにあるんだ。

 頭のどこかで冷静に呟いて、俺は瀬戸を見つめていた。

 今にも涙が溢れそうなのに、力強い眼差しをこちらに向けてくる。

 どのくらいぶりだろう、コイツのこんな表情を目にするのは。

 何だか無性に晴れやかな気分になって、俺は微かに笑った。

「曽根?」

 瀬戸が目に涙を溜めたまま、訝しむ。

 すごいなあ、コイツは。

 思い込みは激しいわ、変な逃げ癖はあるわ。振り回されてばかりだけど。

 それでも瀬戸の気持ちはいつも真っ直ぐ、俺のもとに届く。

「……俺さ」

 自然にこぼれる言葉。

 これも同じように、彼女のもとに届くだろうか。

 俺の気持ちは届くだろうか。

 届くといい――いや、届けたい。

 瀬戸がふと首を傾げた瞬間――俺はその耳元に落とすように、そっと告げた。

「――俺、瀬戸が好きだよ」



  【続】


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